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サイクリングロード




持て余した手をぐっと握る 
座り込み 携帯電話は地面に伏せた

向こう岸に見える光 僕は目が悪いんだけれど
微かにゆらめく光 すぐにそれが火だとわかった

分厚い雲 行き交うライト 流れる水 鳴き奏でる虫
忘れている唄を 必死に思い出そうとする

自転車の横 風は強く 風に切られて目を瞑る
あの火が消えてなくなるまで この場所にいようと思った

どんな顔をしていただろう どんな色をしていただろう
大丈夫だろうか あらゆるところが痛くって


持て余した手をふっと解く
座り込み 足を曲げて伸ばして

耳を澄まして 目を凝らして そこに無い答えを探す
微かにゆらめく光 まるで何かを待っているよう

三角形の 隙間から見える たくさんの灯り 生活の光
自分以外は 正常な光

自転車の横 座り込む僕 大切なものを探している
自分自身の操作の仕方 自転車よりも難しくて


溜め息にもなれない 形すらない心が
奥底で爪を噛んでいる
溢れてやろうとしてるのに 僕自身がそれを止めている

本当は気づいている 自分自身の操作の仕方
誰かが作った旗を目指して 自分の旗は背中に隠した

捨てられない 捨てちゃいけない

ボロボロでもいい 旗は立てなきゃ旗じゃない
何回折れてもいい また付け直してあげればいい

忘れていた唄が 内臓の奥に響き出す

自転車の横 風は優しく 僕を包んで涙を拭う
火は消えている 空は晴れた 僕は星に手を伸ばせる

どんな顔をしていただろう どんな色をしていただろう
きっと大丈夫 痛みの理由を知れたから

真夜中のサイクリングロード 自分だけが世界
全速力で自転車を漕ぐ 風を切って自転車を漕ぐ




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