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ヴィクトリアと呼んで。

その夢の中で、僕は一人の女性になっていた。

嵐の夜。荒れる海。沈みゆく船の上で、私は倒れていた。

隣には男がいる。老人だ。ボロボロの姿であり、今にも命が終わるようだ。
その全てを諦めたような姿を見て、私は思い出した。

そうだ。ずっと一緒に旅をしてきた。彼の愛する女性ーヴィクトリアを探して。
私は彼が好きで好きでたまらなくて、報われぬ覚悟のもと、ついてきたのだった。

嵐は暗い海に打ち付けられ、激しい波が船を砕いてゆく。けたたましく鳴る破壊的な音の数々。しかしその全ては耳に入ってこない。ただ不思議な静寂が、私たちを包んでいた。

「ねぇ、まだ生きているんでしょ」

そう言うと、彼はゆっくりと顔をこちらに向け、細く優しい声でこたえてくれた。

「あぁ、まだ生きているよ」

その声が胸に届いた瞬間、私は感情の波に飲み込まれた。

愛する彼が今まさに死んでいく現実。終ぞ運命の彼女を見つけられなかった彼の無念。ずっと抱えてきた、なぜ私がヴィクトリアではないのかという暗闇。そして何より、最後に彼に愛してると伝えたいという強い想い。だが、それを伝えてしまっては、彼の死、私の死にも曇りがでてしまうという葛藤。

いままで抑えてきたすべてが口から溢れようとするのを、私は必死に抑えようとした。しかし、それもかなわず、咆哮するように泣いた。せめて、漏れ出したものが形にならないように。戦っているかの如く、激しく手足を打ち付けながら、愛してるの一言だけは漏らさないように。私は泣きつづけた。

・・・やがて、その叫びも果てた頃。私は顔を両手で覆い、震えるだけとなっていた。
感情の荒波は去り、いまはただ、葛藤の余韻が静かに音をてている。

しかしその波音は、枯れ果てた心を揺らすには十分すぎた。
徐々に大きくなる体の震え。口から漏れてくる嗚咽。

私は負け、そして言った。

せめて。

せめて。


「ヴィクトリアと呼んで・・・」



ここで目が覚めた。

22歳の頃の話です。

この夢から覚めたとき、ぼくは彼女の感情をひきずりすぎ、猛烈に悲しい気分でした。
そのまま、母に内容を話すと、最後には泣いてしまっていました。

「夢の話をして泣く人をはじめて見た」と母は笑っていました。

いまでも、心に残っています。

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