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美容室

髪を切った日は、生まれ変わったような感じがする。

鋏が刻む音や、人が動く音を聞くのが好きだ。
ドライヤーの風も、適度なお湯の温度も。

美容室の音と空気が、好きだ。

真っ黒で量が多くて少し癖のある生え方をしている、私の髪。
美容室では、その話題でよく美容師さんと盛り上がる。

床に散らばる切り離された髪の毛は、ショートカットからショートカットへ切ったのにロング並みの量。

絶対ひとり分の量じゃないよ!とか。
鋤いても鋤いても、無くならない!とか。

ある日、髪を洗ってくれたお姉さんがとびきりの笑顔でこう言ってくれた。

「髪の毛がもう、元気!!!って感じですね!」

私の髪の毛は常にとにかく元気で、その量にも困らない、らしい。
素直に嬉しいと思う。

そういえば昔、美容師になった同級生から『先輩がカットモデルを探している』と相談された事があった。
丁度そろそろ切りたかったしな……と引き受けたのだが、それが昇進試験か何かの大事な場面で私も妙に緊張したのを覚えている。
切り終わってみて、おそらく店長である男性が一言。

「また、カットが大変なモデルを選んだね」

何とも、申し訳ない。
カットは綺麗だったし、後日無事に合格だったと聞いて心底ほっとした。
あの美容師さんとはもう会っていないし、同級生とも疎遠だけれど、今も元気に髪を切っていたらいい。

どうやら美容師さん的には厄介な私の髪の毛。

でも、私の大好きな漆黒の髪の毛。

新しい髪型の新しい自分を最初に見る自分。は気分が良い。

美容室の帰りは、生まれ変わったようにすっきりとした気持ちになる。

まるで魔法みたいだなと、いつも思う。


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