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2. 帰国〜調停まで

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23. その日浅草で見た空はいつもより明るく見えた。

23. その日浅草で見た空はいつもより明るく見えた。

可奈の声を、偶然とはいえ2か月振りに聞けた私は少し元気を取り戻し、裁判所に行く決心がついた。争うのではなく、可奈の為に「調停」で話し合おう。調停で話がまとまらなかった場合、「審判」に移行して判決が出るとのことなので、覚悟が必要だった。(刑事事件ではなく民事事件なので裁判ではなく審判になる。)

後ろ向きな考えだけど、万が一話し合いがまとまらず生き別れになってしまった場合、いま調停を起こせば『ママは

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22. 奇跡の電話

22. 奇跡の電話

どうすれば可奈を取り戻せるんだろう。どうすれば、このどん底から抜け出せるんだろう。苦しい。もういやだ。まるで片腕をもぎ取られたような痛みと喪失感が常にあり、起き上がる気力も湧かない。

こんな、出口の見えないトンネルに放り込まれて、これから先、どうやって生きていけばいいのか分からない。

ふと、1つの考えが頭をよぎる。

もしも諦めたら・・?
このゲームから降りてしまったら?楽になるのだろうか。

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21. 夫の言葉

21. 夫の言葉

何を食べても味がしないのに何故か、スナック菓子だけは美味しいと感じた。長くジャンクフードを絶っていた反動が、今回のストレスで爆発したかのようだった。

不健康極まりないのは分かっていたが他に選択肢がない。あらゆるスナック菓子を夕食代わりにし、部屋でくすぶっていたその時、電話が鳴った。
裕太からだった。少し躊躇ったが、電話に出た。

「あのさ、もう友達使って説得とか、やめてくれないかな。」

裕太は

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20. 友人の説得

20. 友人の説得

「紗英ちゃんごめんね。裕太と話したんだけど、もう決めたからって一点張りで、何を言ってもダメだった。」

俊平くんは電話口で、申し訳なさそうに言った。

私は「何となく想像はしていたけど、やっぱりそうか。希望の光をひとつ失ってしまったな・・。」と思い、全身の力が抜けた。

「裕太は、紗英ちゃんが全部悪くって、自分は間違ってないと思ってるよね。それもなんだかなぁ。」

俊平くんはそう言って力無く苦笑い

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19. 「当事者」という存在

19. 「当事者」という存在

「紗英ちゃん、私の知り合いにね、もうずっと前なんだけど、紗英ちゃんみたいにお子さんに会えなくなってしまった人がいるの。その人は今同じ状況の人の相談をボランティアで受けているんだけど、良かったら紹介するよ。」

ハワイに行く前に趣味で通っていたダンス教室の先生、より子ちゃんにそう言われ、同じ状況で苦しんでいる方が他にもいる事と、相談する場があることを知った。



その方は、ゆみさんといった。 よ

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18. 駅前法律相談。

18. 駅前法律相談。

今にして思えばこの時は一刻も早く動くべき時であり、予約してから2週間後にアポが取れるような駅前の法律相談を予約している場合ではなかった。だけど、私はその時起こっていた事をそこまで深刻に捉えていなかったので、全ては後手に回ってしまった。



相談時間は30分だった。不眠が続き、思考はクリアでなかったけど、無理やりコーヒーを流し込み、リビングのテーブルで聞きたいことを紙にまとめていたら、私を心配し

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17. 連れ去りの理由

17. 連れ去りの理由

翌日、タイミング良くハワイで知り合った友人の俊平くんから電話がきた。

「紗英ちゃん、どうしてる? 今度東京に行くんだけど、時間あったらランチでもしようよ。」

俊平くんの声を聞くと、あの、可奈と一緒に通っていたヒロのビーチを思い出し、泣けてきた。

お互いの歳が近いこともあって俊平くんとは良く遊んだ。まさに「健康そのもの!」というタイプのサーファーで、暇さえあれば海に出ていたし、波がないときは地

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16. 夫、裕太との話し合い。

16. 夫、裕太との話し合い。

少しの間をおき、驚いた顔をした裕太が出てきた。顔を見るのは久しぶりで、なんだか変な気分だった。髭が伸びたな・・と、ぼんやり思った。

「・・・用意するからちょっと待ってて。」

ドアを閉め、着替えた裕太が険しい表情で出てきた。「駅前で話をしよう。」と言って車を出した。



日の当たるカフェに3人で座った。もうすぐ春だけど、少し肌寒かったので3人共暖かいお茶を頼んだ。

思わず、矢継ぎ早に質問す

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15. 夫の実家へ

15. 夫の実家へ

裕太から浴びせられた言葉にショックを受けてうずくまっていると、夏生が部屋にやってきた。

「・・姉ちゃん、今から裕太さんの実家に行こう。俺も一緒に行くから。可奈ちゃんに会いに行こう。」

突然の提案に驚いたが、熟考した後、決心した。

いい年をして揉めている夫の元へ家族をと行くのはなんとも情けない気がしたが、正直、今は一人で行ける気がしない。行ったところで何が起こるかわからないし、この弱った状態で

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14. 夫との電話

14. 夫との電話

「もう、電話しないでくれるかな。しつこいんだよ。これからは俺が一人で可奈を育てるから、今度、離婚届を持ってそっちに行くよ。」

何回かけたか分からない電話にやっと出た裕太は、冷たく言い放って電話を切った。

まさかこんなことを言われるとは想像すらしていなかった私は、しばらく放心状態だった。

可奈が生まれてからの4年間、主に育児をしていたのは私だった。母乳は誰かにあげたいほどたくさん出たのと、ハワ

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13. 日本へ

13. 日本へ

よほど憔悴していたのだろう、空港からどうやって帰ったのか、全くと言っていいほど記憶がなかった。覚えているのは、実家のドアを開けた時泣きそうな顔をした母の顔と、リビングに座る父の背中だ。

(親不孝をしてしまったな、、。)どんな表情をすればいいのかわからず、顔が歪み、間の抜けた「ただいま」を言ってしまった。母が悲しそうな笑顔を向けた。

実家を出てからもう10年以上は経っていたけど、学生時代に使って

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