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16. 夫、裕太との話し合い。

少しの間をおき、驚いた顔をした裕太が出てきた。顔を見るのは久しぶりで、なんだか変な気分だった。髭が伸びたな・・と、ぼんやり思った。

「・・・用意するからちょっと待ってて。」

ドアを閉め、着替えた裕太が険しい表情で出てきた。「駅前で話をしよう。」と言って車を出した。

日の当たるカフェに3人で座った。もうすぐ春だけど、少し肌寒かったので3人共暖かいお茶を頼んだ。

思わず、矢継ぎ早に質問する。

「ねぇ、可奈はどうしてるの?ママがいなくて大丈夫なの?」

裕太は答える。

「元気だよ。今、幼稚園に通っているんだ。全然寂しがってないし、ママに会いたいって言わないから、こっちは心配してるんだよね。」

私は絶句した。

あの、ママっ子で、いつでも「ママ大好き!」と甘えていた、可奈が?

頭がぐるぐる回る。眩暈と、吐き気がしてきた。呼吸が浅く、苦しい。

「・・・可奈に会わせて欲しいんだけど。」

やっとの思いでそう言うと、

「今は会わせられないよ。というかさ、もう、母親のことは忘れさせようと思っているんだよね。」

裕太は、残酷な事をサラリと言った。


本当は、公衆の面前だろうが何だろうが、怒鳴り散らし、罵倒してやりたかったけど、夏生が強い目線で制した。

(今は裕太さんを刺激しちゃダメだ。)

悔しい気持ちをぐっと堪え、手を強く握った。爪が刺さるが、不思議と痛みは感じなかった。きっと、私の胸のほうが痛かったからだ。

「・・裕太さんがそういう態度を取るんでしたら、残念ですが、法的手段を取らざるを得ないと思いますが。」

冷静に伝える夏生に、裕太は今まで見たことがないほどに尊大な態度で夏生に言った。
 
「全然いいですよ。こっちは逃げも隠れもしませんので。」

そう言うと、「用事があるので」と、立ち去った。


駅のホームで、夏生と帰りの電車を待った。アナウンスや人々の話し声、色んな音が飛び交っているのに、全部遠い所で鳴っているようで、現実味がなかった。

ふと、下を見る。このホームに飛び込んだら、辛い現実は終わるのかな、という思いが頭をよぎった。
 
それを察したのか、夏生が腕を強く掴んだ。

「大丈夫だよ、姉ちゃん。可奈ちゃんは絶対に、姉ちゃんに会いたいと思ってるよ。可奈ちゃんは姉ちゃんの事大好きだったじゃないか。きっと、今は我慢して、言わないようにしているんだよ。姉ちゃんが信じなくっちゃダメだ。」

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