22. 奇跡の電話
どうすれば可奈を取り戻せるんだろう。どうすれば、このどん底から抜け出せるんだろう。苦しい。もういやだ。まるで片腕をもぎ取られたような痛みと喪失感が常にあり、起き上がる気力も湧かない。
こんな、出口の見えないトンネルに放り込まれて、これから先、どうやって生きていけばいいのか分からない。
ふと、1つの考えが頭をよぎる。
もしも諦めたら・・?
このゲームから降りてしまったら?楽になるのだろうか。
世の中には、そうやって、離婚した子どもの事は諦め、第二の人生を送っている人だっているんだ。
そんな考えが湧き上がった瞬間、電話が鳴った。
裕太の名前が表示されている。
何だろう?
恐る恐る電話をとると、遠くからフォークがお皿に当たるような、食事中のような音が聞こえた。のどかな昼下がりに食卓を囲む風景が目に浮かぶ。
きっと裕太が、ズボンのポケットだかに入れたスマホを、間違えて押してしまったんだ。
スマホのボリュームを最大にして、耳を澄ますした。遠くから話し声が聞こえる。
「・・・だよ~・・・。」
・・・可奈の声だ!
何て言っているかは聞き取れなかったけど、可奈の声だった。幼く、可愛らしい声。どことなく成長し、お喋りが上手になっているようだった。
「それは違うよ、かなかな!」
義母の声が聞こえた。
「かなかな」、というのは私がハワイにいる時に可奈につけたあだ名で、義母は呼んだ事のない呼び方だった。
それを、私じゃなくって、義母が呼んでいる・・。瞬間、悔しさと嫉妬に駆られたが、スマホに耳を近づけなんとか可奈の声を聞き取ろうとした。
「・・・・・」
話し声は聞こえなくなった。だけど、大声で叫んだら可奈のところまで声が届き、ママに気づいて電話を取るかもしれない。
私はそう思い、力の限り「可奈!可奈!!」と、叫んだ。
反応は無い。
10分ほど経った頃、裕太の「あれ?」という声が聞こえ、電話は切られた。
まるで可奈から「ママ、諦めないで!頑張って!!」と、メッセージをもらったかのような偶然・・奇跡だった。
私は、可奈の可愛らしい声を何度も何度も反芻すると共に、頭に浮かんでしまった諦めの気持ちを深く反省し、(絶対に、絶対にあきらめないからね。)と、心に誓った。
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