見出し画像

2014東大国語/第一問/解答解説(再録)

出典は藤山直樹『落語の国の精神分析』。

テレビやネット上のインフルエンサーと同様、受験現代文業界においてもネポティズムで成り上がった中身のない山師が跋扈する昨今だが。

本問は「精神分析の統合メカニズム」を「落語の統合メカニズム」になぞらえて示す問題である。「今でしょ」の人はともかく(分析家の孤独って何だよ笑)、業界一の実力者とされる先生も、あえてとる方針だろうが、結果、知性の劣化に加担することになる。

問五 「生きた人間としての分析家自身のあり方こそが、患者に希望を与えてもいる」(傍線部オ)とあるが、なぜそういえるのか、落語家との共通性にふれながら100字以上120字以内で説明せよ。

〈GV解答例〉
様々な期待をかける観衆に、複数の人格を行き来しながら一つの世界を示す落語家と同じく、人生の本質的な改善を期する患者に、その分裂した人格の重みを引き受けた上で対象化してみせる分析家の姿勢こそ、人間の本来的な分裂性を統合する視座をもたらすから。(120字)

〈参考 S台N師解答例〉
落語を観る喜びの中核に分裂を楽しんで演じる孤独な落語家を見る楽しみがある。同様に、孤独な分析家が患者と同一化する分裂から立ち直り、自身の視点で患者を理解する生きた人間のあり方に患者は癒され、一人の自律的な人間である可能性をも見出 しうるから。(120字)

〈参考 T進解答例〉
分裂しながらも一人の人間として生きる落語家の姿に観客が希望を見出すように、同じく孤独を抱え、文化を内在化する分析家が、患者内部の分裂への同一化による分裂を克服し、自身の視点を回復する姿を見て、患者自身もまた、自律性を回復できると思えるから。(120字)

〈解説〉

「理由説明型」要約問題。基本的な手順は以下の通り。
1⃣ 傍線部自体の端的な理由をまとめる。(解答の足場)
2⃣ 「足場」につながる必要な論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
3⃣ 必要な小要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(ディテール)

1⃣ 「生きた人間としての分析家自身のあり方」をS(始点)、「患者に希望を与える」をG(終点)とし、それをつなぐ理由Rを探す。Sは傍線前の部分を加えて言い換える必要がある。そこで、問四での理解を加えて「患者の分裂を引き受けた上で対象化してみせる分析家の姿勢」(S+)とする。
なぜ「希望」につながるのか? 最終行より「(分裂に悩む患者に)ひとりの自律した人間と思わせる」からである。どのように? 問三の理解より、分析家の「対象化」の試みが「統合の可能性」を見せてくれるからである。
ここまでをまとめて「S+こそが、分裂に悩む患者に、分裂を統合する見方(視座)をもたらすから」としておく。
2⃣ アウトラインについては、出題者のヒントに従う。つまり「落語家(X)との共通性」にふれる。ならば、類比の問いとなり、問一で検討した「分離型」の構文を使う。スペースに余裕があるならば、基本的に「分離型」の方が両者(X/Y)のニュアンスの違いも表現できて有利である。
「(x1)の観客に/(x2→x3)する落語家と同じく//(y1)の患者に/(y2→y3)する分析家こそが/分裂を統合する視座をもたらすから」という構文に定める。※(x2→x3),(y2→y3)は、(分裂→統合)というベクトルになる。
3⃣ まず①②③④段落から「観客、患者の過度の期待」(落語家、分析家の圧倒的孤独)という共通性を抽出。⑤⑥⑦段落からは「落語家の分裂」つまり落語家が「複数の登場人物に入れ替わりながら」演じること、それが観客に「一人の人間による、まとまった一つの世界」として示されることを指摘する。⑧⑨段落は既に考慮した。
最後に⑦段落の「人間存在の本質的(本来的)分裂性」を加える。だからこそ、落語家と分析家の「分裂を引き受け、それに統合をもたらす」あり方が、人々に「希望」をもたらすのである。

→「至高の現代文/解法探究29」「14. 類比の形式と設定」参照

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?