童話:チェスが禁止された国 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2022年8月号
むかしむかしここからとおいところにある国がありました。
その国は国民がみんなすべて平等で幸せで何も不自由なく暮らせるようにすべてを手配してくれる中央政府がすべてを管理してました。そのため、この国に住む人々はみんな平等で幸せで何不自由なく暮らしていました。
そんな幸せなある日、なにやらペルシアという国から伝えられたゲームがどうやらあやしいとの噂が中央政府の耳に入ってきました。チェスと呼ばれるそうです。幸せな国民が興じているゲームは市松模様の盤の上で白と黒に分かれ2人で勝負を争うものだそうです。どうしてあやしいかと言うと、この国が大切にしてきたいろんなモノに違反するらしいからです。悪いモノは早いうちに根絶しないといけません。この国の国民の幸せを守らなければなりません。それで、そのチェスとかいうゲームを評価するために閣議が開かれることになりました。
「このゲームは争い事であり、勝ち負けがあるので不平等です!」
完全平等大臣が第一声をあげました。
「さらに、このゲームは人種差別をします!まず、盤が白と黒であることが違反です!それに白と黒の駒を使うのも違反です!」
人種差別はこの国の違反の中でもとても重いモノです。
「しかも、ゲームのルールによると白が先手で、白駒から攻めるので、白優勢で黒を差別してます!白至上主義ととらえてもよいと考えます!」
とこのように大臣がすすめました。
「前にしか動けないのに前線にだされ、犠牲にされる兵隊(ポーン)があります!権限の少ない労働者を犠牲にするこのやり方は典型的な資本主義のやり方で到底容認できません!」
と労働保護大臣が発言しました。
「駒によって、働き方が違うのも平等ではないです!」
と続けました。
「動物虐待の疑いもあります!騎士が乗った馬(ナイト)はL字の動きしかさせられないので、馬の自由を拘束する行動です!」
今度は動物愛護大臣が声をあげました。
「このゲームの根本は王政を奨励するモノであるのは明白です。キング(王様)を守るために他の者たちが働いています!」
労働保護大臣が解析しました。
「さらに、ビショップ(僧侶)が王政のために働いているなんてとんでもない!政教癒着でしょう!」
と続けました。
「注意してみると、このゲームは男性中心主義と家父長制を啓蒙するそのものです!」
完全平等大臣がまた発言しました。
「クイーン(女王)が一番たくさん働かないといけないし、その仕えるキングはろくに動きもしません!性差別も甚だしいし、我々の平等生産活動主義に違反するものです!」
大臣達は違反の数にびっくりした様子です。
閣議でチェスと言われるゲームを分析したらこれだけ重大な違反がボロボロ出てきました。到底、幸せな国民をこのような危険なゲームにさらすことはできません。ダメです。即効で全面禁止の閣議決定になりました。トンデモないゲームから守られ、とおいところにある国の国民はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
(終)
『この童話はチェスを嗜んでいる24人の読者様であれば、ルールや駒の動きを知っているので、簡単に理解できると思いますが、知らない方もおられるので少し説明が必要でしょう。詳しく知りたい方は、ネットなどに「チェスルール」などで検索すると大量に情報がありますのでご覧ください』
チェスは紀元前からあるインドのチャトランガと呼ばれたゲームの発展型といわれ、西洋ではペルシア経由でチェスになり、東洋では将棋になった。なので、日本では西洋将棋とも呼ばれ駒やルールが似ている。縦横8マスずつに区切られた市松模様の正方形のチェス盤で白黒16駒ずつ6種類(ポーン兵隊、ルーク戦車、ナイト騎士、ビショップ僧侶、クイーン女王、キング王様)の駒を動かし、敵のキングを追い詰めるゲームである。それぞれの駒は独特の動きがあり、駒が動いたマスに敵の駒があれば、それを取ることができる。キングが次の手で絶対逃げられないように追い詰められると、チェックメイトと呼ばれ、追い詰めた者の勝ち。
ポーン:前に1マスのみ進める。ただし、相手を取るのは斜め前のマス。前に相手がいると進めない。相手の駒に取られるマスに進める。
ルーク:縦と横に何マスでも進める。ただし、味方の駒があった場合はその手前で止まる。相手の駒に取られるマスに進める。
ナイト:前後左右に2マス進んで、その真横のマスが移動先。敵味方とも唯一飛び越せる駒。相手の駒に取られるマスに進める。
ビショップ:斜めに何マスでも進める。ただし、味方の駒があった場合はその手前で止まる。相手の駒に取られるマスに進める。
クイーン:縦横斜めに何マスでも進める。ただし、味方の駒があった場合はその手前で止まる。相手の駒に取られるマスに進める。
キング:縦横斜めに1マスのみ進める。ただし、味方の駒があった場合はその手前で止まる。相手の駒に取られるマスに進めない。
難しく言うと、チェスは「二人零和有限確定完全情報ゲーム」と分類されるゲームであり、頭脳によるゲームの代表格の一角である。
二人:二人で競うゲーム。
零和:競技者の間の利害が完全に対立する。一方が利得を得ると、それと同量の損害が他方に降りかかる。
有限:ゲームが必ず有限の手番で終了する。引き分けになる場合も存在するが、無限に展開するゲームではない。
確定:サイコロを使用したような無作為(ランダム)な要素がない。
完全情報:すべての情報が両方に公開されている。反対にじゃんけんは相手がどんな手を出すかという情報を知らない状態で自分の手を決めるので非完全情報になる。
『とても難しいゲームですわ。筆者の中学校時代に脳みそのトレーニングにと奨励されましたな』
月刊ピンドラーマ2022年8月号
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