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エドゥアルド・コブラ 『世界に開かれた窓』 ブラジル美術の逸品 おおうらともこ 月刊ピンドラーマ2022年11月号


エドゥアルド・コブラ 『世界に開かれた窓』 736㎡ 壁画 2022年 サンパウロ市 
Eduardo Kobra, " Janelas Abertas para o Mundo ", Mural, São Paulo

“祖国を捨て、さまざまな理由で移住を余儀なくされたこれらの人々を受け入れるため、また、彼らが幸せになり、ブラジルの地で再出発できるように、窓だけでなく、ドア、目、そして心も開く必要があります”

コブラの愛称で知られるブラジルの著名ストリートアーティスト、エドゥアルド・コブラ氏が、8月27日に新作壁画をお披露目した。サンパウロ市ブラス地区にある移民博物館前に面する736平方メートル(高さ5.8m x 幅127m)の横長の壁に、近年、世界各国からブラジルに到着した移民と難民の肖像が描かれている。同氏の作風の特徴である黒をベースにした描写に、カラフルな色彩が織り混ぜられている。

タイトルは『世界に開かれた窓』で、その名の通り、サンパウロに在住する8人の移民や難民がモデルとなって、壁に描かれた6つの開かれた窓から生き生きとした瞳で顔をのぞかせている。

今回モデルとなったのは、リビア、パレスチナ、イラク、ベネズエラ、アンゴラ、インド出身の人々で、コブラ氏は作品を描くに当たって、実際に様々な難民たちと対話を重ね、それぞれの足跡や事情を学び、イメージを膨らませてきた。

「壁は色々な場所を分割し、違いを画し、行き来を妨げる障害、世界に必要がないものの象徴です。移民や難民に全く関心を持たず、まるで彼らが存在しないかのように目をそらすことは、彼らに嫌悪感や偏見を持つことと同じくらいひどいことです。それだからこそ、そうした人に向けて、開かれた窓から外にまなざしを向けている彼らの姿を見せてやろうと決めたのです。この作品で用いられた色はそれぞれ、これまでにないほど特別な意味を持っています。異なる出身地、文化、色々な特徴を持つ人々が集まって国を、世界を美しくするのです!」とコブラ氏は制作意図を語っている。

シリアから帰化した難民で、コブラ氏と交流があるアブドゥルバセット・ジャロール氏(32才)が、ブラジルでの現代の難民と移民の受け入れに関していつも述べるのは、「ブラジルは扉は開かれているが、中に入ると窓が閉まっている」ということだ。日本のように非常に門戸が閉ざされていることはないが、いざ入ってみたら路上生活の危機すらあり得るほど、難民や移民の生活は決して楽ではない。

その様な現実からすると、『世界に開かれた窓』のさわやかな笑顔のモデルたちの姿は、現実というよりは、いつも笑顔でありたいという難民のささやかな心の願いが映し出されているように思われる。


エドゥアルド・コブラ
Eduardo Kobra (1976 - )

本名カルロス・エドゥアルド・フェルナンデス・レオ。コブラの愛称で知られるサンパウロ生まれのストリートアーティスト。1987年に11歳でキャリアをスタートさせて以来、世界の5大陸で3000を超える壁画を描いてきた。 作品は委託されたものと彼自身のアイデアで描かれたものがあり、毎月2~4枚の壁画をチームで協力して制作している。サンパウロ市内の著名な壁画は、パウリスタ大通りのジャパンハウスの背後のビルに描かれたオスカー・ニーマイヤーの肖像や Rua Henrique Schaumann(Rua Cardeal Arcoverdeとの角)にある教会 Igreja do Calvário 前に描かれた 異宗教の子どもたちが祈る姿を描いた「Covid-19のすべての犠牲者のための追悼画」など。

【サイト】

◎インフォメーション
移民博物館 Museu da Imigração
Rua Visc. de Parnaíba, 1316 – Mooca
火~土:9時~18時 / 日:10時~18時
入場料:10レアル 
※壁画は博物館の外の壁に描かれているので、入場せずに見ることができる。

おおうらともこ
1979年兵庫県生まれ。
2001年よりサンパウロ在住。
ブラジル民族文化研究センターに所属。
子どもの発達にときどき悩み励まされる生活を送る。

月刊ピンドラーマ2022年11月号
(写真をクリックすると全編PDFでご覧いただけます)

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