島田愛加さん(東京都出身) <新連載>21世紀の日系移民(第1回) 布施直佐 月刊ピンドラーマ2024年5月号
◎ブラジルに来た経緯
昨年から、サンパウロ市リベルダーデ区に住み始めた島田愛加さん。現在、執筆業に打ち込むかたわら、ブラジル人の夫が立ち上げた出版社を手伝い、多忙な日々を過ごしている。
10代の頃からアルトサックスの演奏を始め、高校では日本の吹奏楽において高校野球の「甲子園」に匹敵する普門館の全国大会で金賞を2回受賞、その後音楽大学に入りクラシックを学ぶ。卒業してからは音楽に関わる仕事に就きながらも、小学校時代に出会ったボサノヴァをプロとして演奏したいという思いがどんどん膨らんでいった。
そして2010年、音楽+観光ツアーに参加しボサノヴァを生んだ国ブラジルを初めて訪れた。10日間でリオ、サンパウロをまわり帰国したあと、ブラジルの文化・音楽をもっと深く知るには現地に住まなければと、留学を決断。そして2014年、6か月滞在の予定でブラジルに戻った。
◎音楽院での日々
到着後すぐ不思議な縁と運に恵まれ、南米最大規模の音楽院、サンパウロ州立タトゥイ音楽院に中途入学することができた。入学当初はポルトガル語がほとんどわからなかったが、講義を録音して帰りのバスで聞き、住居も日本人が多く住むリベルダーデからタトゥイのシェアハウスに移るなどしてからは、間もなくポルトガル語で不自由なくコミュニケーションできるようになった。
州立の学校なので学費は無料であったが、入学して10か月後友人の勧めで受けた奨学金の試験に受かった後は生活費の心配もなくなり、音楽に専心する理想の環境が整った。
音楽院にはペルー、チリ、ウルグアイ、アルゼンチンなど南米からの留学生も在籍しており、授業の後は日替わりでそれぞれの国の音楽を彼らから学ぶことができた。また、先生や学校の友人たちとサンパウロ州各地を回って演奏し、まさに音楽漬けの毎日を過ごすことができた。
◎南米文化の専門家を目指して
タトゥイ音楽院は通常7年制だが、音楽大学を卒業しているため5年で卒業した。ボサノヴァだけでなくMPB、サンバ、ブラジル北東部の音楽、さらにペルー等の南米の音楽にも興味を広げていった愛加さん。ポルトガル語が上達するとともにそれぞれの音楽の成り立ち、歌詞の内容や背景に興味を持つようになった。調べた内容を自分のサイトに載せたところ、ニューズウィーク日本版の記者の目に留まり、そこからライター生活が始まった(※1)。
また、お祭りを見るとそこで使われる仮面や担ぎ物の意味や歴史にも興味を持つようになり、音楽から民俗学へと研究の範囲をどんどん広げている。自分がブラジル音楽に興味を持ち始めた時に、前の世代の研究者から色々教わったように、自分も次の世代に南米文化を幅広く教えられるような存在になることを目指している。
将来実現したいことは、ブラジルの各地方に伝わる音楽や口承の文化を現地に滞在して取材し、ドキュメンタリー作品にまとめること。
◎ブラジルでの10年
当初は半年だけ滞在する予定があれよあれよと10年も経ってしまい、結婚も果たした。
「今までここを離れたいと思ったことは一度もありません。ブラジル音楽が大好きという理由もありますが、多種多様な人々と生活することで、自分の視野が何倍にも広がりました。そして今ではその大勢の一人であり、変わり者でも何でもない(つまり人から『変わってるね』と言われない)っていうのが良いのです。ブラジルに少しでも行きたいと思っている人は行ったほうが良いですよ。ブラジルは『Porta Aberta (来るもの拒まず)』です」
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彼女のような人がブラジルに来たことはブラジルにとっても日本にとっても幸運だったと強く思う。
月刊ピンドラーマ2024年5月号表紙
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