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「新型コロナ。みんなでかかれば怖くない!怖くない?」 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2023年1月号

謹賀新年。2023年の元旦です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が出現してちょうど3年になりました。お誕生日おめでとうといったところですね。人生を全く無駄にした3年間だった感じですが、このコラムの24人の読者様はどのように過ごされたでしょうか?疫学的確率からいくと、たぶん皆さんのうち20人くらいはこの間1回くらいは新型コロナウイルスに感染されたのではないかと思います。

中国の武漢で初めて報告され、「2019-ncov」と命名されたウイルスはイタリア経由でヨーロッパへ広がり、ブラジルでは2月に1人目の感染者が確認されました。以降、コロナウイルスの特徴である変異を繰り返し、世界各地で感染拡大していきました。筆者は疫学を修得したことや中国に留学した経験などから、WHOが「人対人の感染はない」と発表していた2020年の1月中旬には「この感染症は世界的な流行になり、医療がまともに対処できるのには2年以上かかるであろう」と予測したものです。

この流行病は残念なことに世界のあらゆる所で政治的に利用され、ブラジルでも日本でも例外はなかったです。そのため、不必要に人が死亡した、というのが筆者の見解です。不自然な病原体も含め、コロナ禍は人災と言えると考えます。医学では診断と治療が抱き合わせになっていますので、新しい疾病に対応するにもその約束事が縛りになります。つまり、今回のように比較的早い時点で診断が確立しても同じスピードで治療方法が確立するわけではないのです。元々コロナウイルスは風邪の原因病原体として指定がある(註1)のですが、一般的な風邪とは異なる経緯をみせたCOVID-19の治療は手探り状態だったのです。現時点で流通している抗コロナ薬などはもちろん存在しなかったので、既存の薬物で利用できるものがあるのか必死に探したわけです。ブラジルを含め、主に欧米ではヒドロキシクロロキン(註2)が一番に治療薬として候補に挙がり、緊急使用されたのですが、使用方法が確定する以上に情報が暴走し、死者まで出て、政治利用もされ、結局落ちぶれてしまいました(註3)

ブラジルの場合、2020年の中盤にアマゾン発のガンマ株が当地の第一波になり、マナウスでは医療崩壊が起こりました。何とか2021年の1月にはサンパウロ州でワクチン接種が始まり、翌2月には本格的に全国で接種が普及していきました。現時点では既往歴があるなど、重症化のリスクが高い人を対象に5回目の追加接種まで来ています。ブラジルは世界的にモデルになる全国予防接種プログラム(PNI、Programa Nacional de Imunização)が1975年より実施されている実績があるので、ワクチンの接種実施と国民の受け入れは大変スムーズ(註4)にいったと考えます(註5)。2022年末の統計では今まで3587万人の感染者、70万人弱の死者となっています。感染者数で世界の5.5%、死者数で10.4%(註6)。直近1年で3波認められ、現在は第5波中です(註7)

図1.ブラジルの新型コロナウイルス感染者数の推移

日本の場合、集団感染が発生した豪華客船が寄港するという特殊な事情で世界的にも早い時点でコロナ感染者を扱うことを要求されたのですが、2020年は数千人程度の感染者の波で推移しました。欧米諸国の数字と比較して非常に低いため、日本人にはコロナ感染しないX因子が存在すると言った説まで出てきました。しかし他国と比べてややこしい対応をしたため(註8)、その程度の波でも医療崩壊がおきたり、比較して高い致死率が現れました。万単位の感染者の波は2021年の8月頃に起こったため、ワクチン接種が普及しだし規制緩和の方法に向かっていた先進国と反対に規制を強める方向に行ってしまいました。さらに、その年末にオミクロン変異株の流行で、ワクチン接種がある程度進んでいたにもかかわらず、緩和のタイミングをすっかり逃してしまったと思います(註9)。ワクチン接種は近年の副作用バッシングで実施責任のある地方行政がすっかり萎縮してしまった環境(註10)で一から集団接種の方法をセットしないといけなくなりました(註11)。流行病のワクチン接種は迅速にできるだけ人口の大多数に行き渡るのが肝要なのですが、煩わしい接種券の発行や接種後一定期間観察できる環境を設けた会場の設置などややこしいことをしたため、せっかく2021年の2月には接種を開始したのに、実質的には5月に状況が整い、普及といえる状況はようやく7月頃になってしまいました。また、この場合の接種の重要性の説明が正確にされたとは思えないですし、マスゴミは副作用にばかり焦点を当て、社会全体が新型コロナウイルスと戦ったとはいえない経過だったと筆者は観察しています。2022年年末の統計では今まで27百万人強の感染者、5万3千人強の死者となってます。感染者数で世界の4.2%、死者数で0.8%。日本でも直近1年で3波あり、現在第8波に入ったとの認識です。

図2.日本の新型コロナウイルス感染者数の推移

COVID-19を3年間経験して筆者は次のように考えます:

1.新型コロナウイルスは非常に不自然な生態をもっているが、突然変異しやすいRNAウイルスの一種であることは変わりない。

2.COVID-19は他のコロナ感染症のように呼吸器系を侵すが、その病態の根本は免疫疾患、循環器疾患である。

3.新型コロナワクチン接種で得られる免疫は半年以下しか持続しない。

4.新型コロナコロナワクチンは感染そのものを防ぐ効果はないが、重症化や死亡のリスクを減らすことができる。

5.ソーシャルディスタンスやマスク使用などで他人と接触しない機会が増え、本来人間が持っている免疫能力が低下している。

6.予防接種を主にした防疫政策のため、現時点では重症化や死亡する人が激減している。

7.無症状例や軽症例が増えたため、感染していても普通に社会活動を続ける様になり、現行や前回の波のような感染拡大が起こっている。

8.現時点のCOVID-19は一般的な風邪と同じような臨床像が認められ、既往歴などの要因がない限り、めったに重症化しない。

重症患者に使用される抗ウイルス薬が確立したことは大いに評価するべきだと思います。日本では軽症例に使用できる抗ウイルス薬が緊急承認されてよろこんでいます(註12)。安全性が担保されないワクチン接種を否定する人が多く見られるようですが、この新しい抗ウイルス薬も安全性が確定していないので、「安全性」の理屈からいくと、どちらも否定すべきだと思うのですが…。ワクチンにしても、製造に一定の時間がかかるので、どんどん変異していくウイルスの変異株に対応したワクチンを出しても、それを使用している頃にはまた異なる変異株が出現しているので、きりがないです。

『ここまでくると、一般人口のCOVID-19は「普通の流感」のように扱ってもよろしいのではないか?ワクチンはどのみち感染防止効果はないので、インフルエンザのように予想される流行株を使用し、毎年一回接種とし、重症化抑制効果を狙ったほうが医療政策として正しいと思う。コロナ禍、もう止めにしませんか?』

註1:風邪の原因となるウイルスは200種類以上あるが、主なものはライノウィルス、RSウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザウイルス、ノロウイルスの7種類。このリストに載っているのが「コロナはただの風邪」と言った人達の発言根拠。
註2:hydroxychloroquine。元々抗マラリア薬および自己免疫疾患(全身性や円板状エリテマトーデス、リュウマチ性関節炎など)治療薬。ウイルスの増幅を阻害する効果や免疫系に作用し抗炎症活性をもつため、新型コロナウイルス感染に有効と考えられた。
註3:2020年の前半は世界はパニックになっていた。場合によっては死亡率が25%にものぼる、わけのわからない流行病なので、これが良いとちょっとでも噂になれば何にでも飛びついていたのだな。わらにもすがる思い。薬の毒性で死亡したり、劇症肝炎になったりがあり、それらが過剰報道されたり、隠蔽されたり。この薬物を使用した臨床研究も無茶苦茶なモノが多く発表された。また、製薬業界、医療器機業界、検査業界、政界、官界、学会など色んな利権が跳梁跋扈し人類の醜さが猛烈に曝露した。
註4:当地ではコロナ死者が大変多かった。だれでも周りにコロナ死者がいるくらいの勢いだったので、ワクチンに否定的な人もビビって接種に走ったと思う。
註5:新型コロナワクチンについてはボルソナロ大統領が大変否定的で推進しようといった姿勢の反対だったが、一応国民全体に行き渡る量を購入して無料で配布したのは評価してもよいと思う。しかしその姿勢の揚げ足をとられ、コロナ死者の責任者であるといった論調にされてしまった。
註6:ブラジルのコロナ死者数は突出して大きい。この数字には疑惑があり、コロナ関連の緊急予算は「状況がひどい所に沢山出た」ので、地方行政が関係のない死亡もコロナ死者として提出していた嫌疑がある。そして、それらの予算はどこかに消えたものが多々あるようだ。
註7:ブラジルの第2波が長く、1年近く続いた。
註8:日本は新型コロナウイルス感染を法律的に感染症法2類相当に指定したため、すべての感染例を行政が扱うことになった。つまり感染疑いもすべて行政(末端では保健所)が扱うので、百人単位であればまだ全例把握が可能であるが、千人万人単位になるともちろん取り扱うことができるわけがない。この2類相当指定のため、一般の医療機関は発熱患者は事実上取扱禁止になり、検査一つ、解熱剤一つ出してもらうのも保健所を通さないといけないといった状況になった。発症して1週間放置されていた例などは沢山紹介された。
註9:言わずもがな、流行病のための規制を緩和しないと社会生活ができない。
註10:1992年に予防接種副作用裁判に国が敗訴したことも重要な要因であろう。
註11:集団接種のやり方を知らない自治体が全国に多数あることが判明した。
註12:ゾコーバ®(エンシトレルビル)。抗ウイルス薬は高価なので、大した効果が認められない軽症例用のお薬はブラジルでは話題にも上がってない。

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訂正:2022年9月のひとりごとに誤りがありました。お詫びをして訂正します。
表の内、青色通知書 Azul, Tipo B  の部分:
誤:発行された州内のみで有効。
正:全国で通用。
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秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、疫学専攻)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。


月刊ピンドラーマ2023年1月号
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