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「結婚・子供」 黒酢二郎の回想録  Valeu, Brasil!(第8回) 月刊ピンドラーマ2024年5月号

さて時は、カルドーゾ政権が金融政策に成功し、インフレがほぼ完全に鎮静化して大統領に再選された1998年。当時33歳の私もついに伴侶を得ることになりました。結婚式では「病める時も健やかなる時もそばにいて、死が2人を分かつまで愛することを誓いますか?」と聞かれ、「はい!」と元気よく答えたような記憶があります。その後、この誓いは果たされず、結果的に嘘をついたことになりましたが、寛大なブラジルの神様はきっと許して下さることでしょう。

親しい友人らが次々と結婚し、焦りを感じ始めた黒酢二郎は30歳を過ぎた頃から婚活を開始したわけですが、私のような者と結婚してくれた奥様には感謝あるのみです。但し、当時は婚活という言葉もなかったばかりか、スマホさえなかった時代ですからマッチングアプリなど存在する由もありません。職場や趣味を通じて構築した友人、知人のネットワークやその紹介を通じてお相手を見つけるというのが一般的でした。

現在日本では少子化対策が議論されており、しかも「異次元の」という奇妙な形容詞まで付いています。具体的な内容としては、出産費用の保険適用、保育サービスの無償化や拡充、子どもの医療費の無償化、児童手当の拡充、共働き家庭への支援強化などが検討されているようですが、人口減少の克服に向けた大規模な移民の受け入れ、それに伴う移民向けの教育、就職、年金制度の整備、結婚という形式に束縛されない出産や子育てが広く受け入れられ、更には性別、人種、性的指向による偏見が根絶されるのは、かなり先のことになるような気がします。

2005年以降、日本では既に死亡数が出生数を上回り、つまり人口が減少し始めたわけですが、このまま有効な対策が講じられなければ、2050年頃に日本の人口は1億を割る見通しです。国力の反映である人口問題に遅まきながらも取り組んで、それが功を奏するのを祈るのみです。2021年の合計特殊出生率(一人の女性が生む子どもの数)は、ブラジルが1.64、日本が1.30となっています。因みに、世界の上位はアフリカ諸国が占め、南米のトップはボリビアの2.62。ブラジルの数値は人口の維持に必要な2.07を大きく下回っており、このままいくと2045年頃に2億3千万でピークを迎え、その後は徐々に減少していくことになります。

私の場合、結果的に2人の子宝に恵まれたので、人口維持に貢献できたのかも知れません。しかも重国籍なので、統計上は日本2人、ブラジル2人の合計4人とカウントされていることでしょう。先のことはあまり考えず、動物的本能のままに行動するお調子者が世の中に増えれば少子化問題は解決すると思われますが、別の問題とトレードオフの事態が起こるに違いありませんね(笑)。

ブラジル生まれで肝が座っている奥様にはいろんな局面で助けてもらいました。そして何より、飽き易く且つ諦め易い私が、時には歯を食いしばって困難に立ち向かうことができたのは、私を必要としてくれた子どもたちがいたからこそ、というのは紛れもない事実です。それまでは、自分の好きなことを、好きな時に、好きな場所で、好きな方法でするという文字通り「自分本位」の暮らしをしていたわけですが、子どもが生まれてからは彼らを守り育てるという崇高な人生の意義が付加され、親としての充実感を味わえるようになりました。その意味で私の方が子どもたちに育てられたと言えるでしょう。

世の中で少子化が進む一方で、多ペット化が進んでいます。近所や公園を散歩していると、ペットを連れている人の多いことに驚かされます。道端にペット様の落とし物が転がっていることも珍しくありません。たまに踏んづけてしまい、糞のついた靴で自宅へ帰って来ることもしばしばですが、そういう時は文字通り「ウンが付いてる」と考えるようにしています。今ではペットショップがそこかしこにあり、場合によっては人間よりもお犬様の方が贅沢な食生活、頻繁な美容や医療を受けている場合もあるようで、ペットを文字通り「猫可愛がり」している友人や知人も多くいます。そんなに可愛がってもらえるなら、次に生まれ変わる時はペットとして生まれてくるのも悪くないかも知れません。その暁には人間様にウンを付けてやろうと思います。

(続く)


黒酢二郎(くろず・じろう)
前半11年間は駐在員として、後半13年間は現地社員として、通算24年間のブラジル暮らし。その中間の8年間はアフリカ、ヨーロッパで生活したため、ちょうど日本の「失われた30年」を国外で過ごし、近々日本に帰国予定。今までの人生は多くの幸運に恵まれたと思い込んでいる能天気なアラ還。

月刊ピンドラーマ2024年5月号表紙

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