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「鬼は外、福は内。鬼は内、福は外?」 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2023年2月号

もうすぐ節分の季節です。日本では豆まきしますね。このコラムの24人の読者様は豆まきしますか?邪気を追い払う習慣ということです。元々節分とは各季節の始まりの日のことで、当たり前ながら4つあります。立春、立夏、立秋、立冬ですが、春が新年(旧暦の)にあたるわけで、特別扱いされたわけです。まあ、こういうものはおみくじのようにまじない事の一種だと捉えられている方も多いと思います。昔は現代のように「色々科学的」に自然現象が解明されていなかったので、陰陽道や五行説などで世の中で起こる事象を説明したのです。季節の変わり目は体調を崩しやすいのは科学的であろうがなかろうが起こりますので、陰陽道では注目され、特に立春は一年の内、陰が陽に変わり(つまり冬から春になるということですな)、一番秩序が変化するとされました。秩序が変わる、崩れる時にはどさくさに乗じて人の弱みにつけいる悪い輩が現れるのは昔でも今でもつい最近でも同じです。

『魑魅魍魎が跳梁跋扈すると言うやつですな』

昔の感覚の魔物や妖怪は例えば科学的にウイルスだ、バクテリアだということが判明しても、それで我々は楽になったのでしょうかね?確かに抗生剤が開発され、以前のように感染症で死亡することは減りました。でも豆まきしていますね。別にしても良いのです。豆まきと関係のある「鰯の頭も信心から」という言葉があります。豆まきではいわゆる邪気を「鬼」に見立ててそれを追い払います。また、鬼の弱点は「トゲのあるモノ」と「鰯の匂い」だそうなので、葉がトゲ状になっている柊(ひいらぎ)の小枝と焼いた鰯の頭「柊鰯(ひいらぎいわし)、焼嗅(やいかがし)」を門戸に挿す習わしもあります。この鰯の頭を飾るのをバカにした言葉なのですが、よおく考えてみれば、「科学」だって「信仰」の一種ですよ。科学が使用する数字や統計、画像などが正しい、絶対的だと思い込んでいるだけで、人間の行為としては宗教や習慣の信心と同じではないでしょうか?

日本人は目に見えない自然現象を「カミ」や「オニ」と呼んで生活してきました。神や鬼ですね。鬼は地獄の獄卒とされてますから、西洋では神が善で鬼が悪とはっきり白黒つきますが、日本の文化では悪い神もいれば良い鬼もいます。つまり善悪の分け方ではなく、普通に説明できない「モノ」を神や鬼と呼び、状況・状態を分類する方法であろうと愚考します。この「鬼」も諸説学説まである現象(註1)ですが、民間が言い伝える鬼の話で健康や医学に通ずるものがあります。鬼は人を苦しめる存在である設定、悪者の場合、「指が三本である、これらは『貪欲』、『嫉妬』、「愚痴』をあらわし、『慈悲』と『知恵』の二本が足りないから」とされます。これは仏教と関連する説明で、三毒という概念です。「貪瞋痴(とんじんち)」と言われる人間の根源的な悪徳であり、「貪(むさぼり)」「瞋(いかり)」「痴(おろかさ)」にあたります。自分の好むものをむさぼり求める貪欲。自分になかったり嫌いなものであれば、憎しみ、嫌悪する嫉妬。ものごとに的確な判断が下せずに、迷い惑う愚痴。これらが人間を毒するので三毒または三不善根ともよばれ、仏教において人間が克服すべき最も根本的な煩悩とされます。

『つまり、なんでも欲しい、なんでも要求する。感情の抑制が効かない。自分勝手、自分中心な状態だな。これって、今の社会が「良いとする」モノではないか?いわば「自分が好きなものであれば、他人の目なんか気にせず、とことん追求するのが良し!」、「欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる力こそ幸福の道」、「自分が正しいと信じているモノ以外は間違いであるから、それらは排除するべし」。ちょっと待て!これらは三毒そのものではないの?』

話を医学に戻すと、現在ほど抗うつ薬や抗不安薬など向精神薬が処方・消費されたことは歴史上ありません。このコラムを執筆していて、現代の人達が何故これほど心を病んでいるのか少し解った感じがします。鬼を外に追い払うどころか、内へ掻き込んでいるのじゃないですかね?

註1:祖霊・地霊説、妖怪説、悪霊説、仏教の鬼、神道の鬼、蝦夷説、白人説、怨恨説など。


秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、疫学専攻)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。

月刊ピンドラーマ2023年2月号
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