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第80回 実録エッセー『甘いスイカの見分け方』  カメロー万歳 白洲太郎 月刊ピンドラーマ2022年11月号


10月を迎え、少しずつ暖かくなってきた今日この頃、ボクらの町の青空市場では、ポツポツとスイカを見かけるシーズンになった。スイカといえば、分類上は野菜であるとか、そんな話を聞いたことがあるが、それを承知の上であえて言わせてもらおう。スイカは『フルーツの王様』であると。

先日も近所に住むジョゼとその家族、隣人などが集まり、真っ赤に熟れたスイカをぱっくり割って、美味しそうに頬張っていた。偶然とおりかかったボクもお呼ばれしたが、みずみずしくシャキシャキで、これでもかというぐらいに甘い。スイカとはこんなにもうまいものだったのか!と、改めて感動したのである。何より、家族や友人と分け分けしながら食べれるというのが良い。スイカさえあれば、家族全員が幸せになれる。そういう意味では、まさに究極のデザートといえよう。

これは是非われわれも購入しなければならぬ。

というわけでさっそく青空市場で小ぶりなスイカを買ってみたのであるが、期待に反してこのスイカがまったく美味しくなかったのである。がっかりするボクたち。小ぶりとはいえ、2人で食べるにはけっこうなボリュームである。それがイマイチとなるとダメージは大きい。我々は2日ほどかけてこの大して甘くないスイカを平らげることに成功したが、もう2度と同じ思いはしたくない。今まで適当に選んできたスイカであるが、きっと選び方にもコツがあるはずだ。突然やる気になったボクは齢40にして『甘いスイカの見分け方』なるものを学ぶことにしたのである。学ぶといっても、農家に弟子入りするとか、自分で種から育ててみるとか、そういうことではない。テクノロジーが発達した現在では、グーグルやYouTubeを検索すれば大体のことはわかってしまうのである。
『便利な時代になったもんだ』
などと呟きながら検索窓にキーワードを打ち込み、上から順にサイトをチェックすること5分足らず、あっという間に『甘いスイカの見分け方』の基本を理解したボクは、次の青空市場が楽しみで仕方なくなった。ちゃぎののためにも必ず甘いスイカをゲットしてみせる!男、しらすたろうの腕の見せどころである。

というわけで、翌週。

隣町の青空市場で屋台を出店する傍ら、ヒマな時間を利用してスイカ選びに没頭するボクらであったが、ここで選び方のポイントについて箇条書きしてみる。
・しま模様の状態
・お尻のくぼみ
・実の張り具合
・実の大きさ
とまあ、こんな感じなのであるが、ボク自身の感想を述べつつ順に解説していこう。

まずはスイカの外皮の状態である。どのサイトを見ても、『しま模様がくっきりしている方が良い』とあるが、どの屋台に置いてあるスイカも薄墨がにじんだような曖昧な模様が多く、くっきりしているものはひとつも見当たらなかった。ひょっとすると品種のせいかもしれないが、ボク的にはあまり参考にならないのではないかと感じている。

そしてスイカのお尻にあるくぼみ。これは大きければ大きいほど熟成しているとのことである。が、しま模様と同様にそこまで重要なポイントだとは思えない。やはり注目すべきは実本体の仕上がりで、カタチが多少いびつでも、実が筋肉のように盛り上がっていたら、それは大いに期待できるコンディションとのことである。この説には直感的に納得できた。そして1番重要なのが大きさ。他のフルーツや野菜では、育ちすぎてしまった個体は大味で美味しくないというイメージがあるが、ことスイカに関してはちがうらしい。
『スイカは大きい方が甘い』
どうやらこれが真実らしいのである。こんなにも簡単かつ明瞭なスイカ選びの指針があったとは知らなかった。これまでの人生、スイカに関しては損してきたな…。と、嘆きたくもなってしまうが、大事なのは学び、再スタートを切ること。今、この瞬間からオレは生まれ変わる!

との決意で、スイカ屋に突進、目を皿のようにして選んでいると、屋台の主人が訳知り顔で近づいてきた。

『おい、ジャパ。ひとついいこと教えてやる。スイカは大きい方が甘い。これは真実だ。ケチらないでデカイの買った方がいい』

普段なら疑ってかかるところである。が、彼は自分が儲けたいからそう言っているわけではなく、本当のことを言っているのだ。インターネットで調べたとおり、やはりスイカは大きい方が甘いんだ!

ますます自信を深めたボクは、並べられているスイカのなかでも最大級にデカい、まるで超人ハルクのような筋肉モリモリのひと玉に目をつけた。値段を訊ねると、

『18だけど、15にするよ!』
と、はじける店主の笑顔。
(それでも15レアルかよ)

まだ高いと思ったが、とびっきり甘いスイカを食べるためには致し方のない投資である。清水の舞台から飛び降りる気持ちで15レアルを支払い、ボクはついに巨大なスイカをゲットした。もしこれがハズレならダメージはでかい。しかし昔の人は言っている。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』
危険をおかさなければ成功は得られないという意味であるが、なんとも勇気づけられる諺である。

仕事を終え、一目散で家に帰りつくと、さっそくスイカを割ってみようということになった。こんなに巨大なスイカを買ったのは生涯で初めてのことである。ガタイがいいだけで、中身は成長不良に陥っているのではないか?そんな疑念を振り払い、ちゃぎのがゆっくりと包丁を突き立てていく様を眺めていたボクは驚嘆した。なんと見事な赤身であろうか!と同時に、あたりに漂う甘い芳香!食べる前からわかる!このスイカがめっぽう甘いということに!

というわけで、ボクとちゃぎのは音をたてながら『フルーツの王様』にむしゃぶりついたのである。この年になるまで大きなスイカとは無縁の人生を送ってきたが、これからは大きなスイカ一色の人生となるだろう。願わくば、すべての人にこの知識が届けばいい。そんな思いをこめて本稿をしたためたボクであるが、知らなかったのは我々だけだったという可能性も捨てきれない以上、あまり大きなことは言わないでおこう。それでは、また来月!


白洲太郎(しらすたろう)
2009年から海外放浪スタート。
約50か国を放浪後、2011年、貯金が尽きたのでブラジルにて路上企業。
以後、カメローとしてブラジル中を行商して周っている。
yutanky@gmail.com
Instagram: taro_shirasu_brasil
YouTube: しらすたろう
Twitter: https://twitter.com/tarou_shirasu

月刊ピンドラーマ2022年11月号
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