ヨガやピラティスの先生になる人たちへ①

ヨガやピラティスなどでは、あぐらを組んだ状態で始まることがあります。

大腿骨が股関節のソケットにうまく受け容れられていない場合など、骨盤が立たないとこの姿勢を取ること自体が辛くなります。頭が前に突き出て、猫背になったり。後ろに転がりそうになったりする人もいます。あぐらは楽に組める人の方が多いので、この姿勢でヨガやピラティスのインストラクターが話しだすことも少なくありません。自己紹介をするインストラクターもいれば、ヨガやピラティスの歴史について説明をするインストラクターもいます。あぐらが楽な人はそうなんだと話を聞いていて、その姿勢が大変だという人は早く終わってくれないか、と冷や汗をかいています。残念ながら、インストラクターは気づけません。

何かのポーズや動きをできなかったとしても、気にしないという人もいるかもしれません。でも多くの場合、周りの人ができているのに自分はそれができない(わからない)と人は傷つきます。「さあ、これからはじまりますよ」という前段の段階で、まさかインストラクターは傷つけている人がいるとは思わないでしょう。でも、そこにこそ、本当は気づくことができるべきです。

ヨガやピラティスを伝える場合、もしあぐらを組んだ状態で始まるのなら、あぐらを組むのが辛そうな人がいないか、一瞬で観察をできる必要があります。さらにそういう人が辛くならずにあぐらを組める方法を提示するか、あるいはあぐらを組んでおこなう何か、話したりストレッチしたり、その時間を短くするなどの判断をレッスンを進めながらおこなう必要もあるでしょう。それも誰も傷つけないように、サラリとおこなえる必要があるのです。

「ダンサーの世界は軍隊のようだ」と言われることがあります。それだけストイックで厳しい世界を生き抜いている人たちならではの美しさというものが、確かにあるのです。ただ、ピラティスとダンスの親和性が高かったとしても、ボディワークとしてのピラティス、セラピー的な要素のあるピラティスであるなら、絶対に参加者を傷つけてはいけないのです。身体的に傷つけてはいけない(怪我をさせてしまってはいけない)ことはインストラクターなら誰でも肝に銘じていることでしょうが、心理的にも傷つけてはいけません。

だけれども、参加者は成長したい、トレーニングしたいと思ってレッスンに参加しています。別にセルフマッサージ教室に来ている訳でもないのです。ここが少し難しいところです。だから、きちんとトレーニングとして、ヨガなりピラティスなりを提供する必要があります。

ちょっとした言葉の選択によって、参加者は混乱します。少しでも頭の中に疑問があれば、集中できなくなり、レッスンの効果は得られなくなります。わからないと思いながら、質高く動くことはできません。頭の中でおしゃべりをし続ける状態、考えさせてしまっては、身体の感覚を感じることはできません。

「わからない」「はずかしい」「面白くない」...そういった感情を持たせることなく、その瞬間その瞬間に集中できて、楽しければ、良いレッスンとして成立しています。スタイルが良いとか、難度の高い動きができるとか、知識が豊富とか、それはそれで素晴らしいことかもしれませんが、傷つけないレッスンができるインストラクターが優秀だと思います。

人はとても傷つきやすいのです。そして、忘れてはいけないことがあります。インストラクターはヨガならヨガ、ピラティスならピラティスが生活の中心かもしれませんが、参加者はそうではありません。忙しい生活の中で、ストレスの多い社会の中で、レッスンに参加してまで傷つくべきではないのです。身体の快適さを感じたり、心地好さを味わえたり、できなさそうな動きができたり、前回参加した時より上手に動けた達成感があったり、何か楽しいものであって欲しいと願います。別に修業ではなく、エンターテイメントであることをインストラクターは忘れてはいけないのです。

良いレストランに行くとたくさんのことが学べます。食べる際に恥をかかせるような、グルメ以外に居場所のないようなレストランはたいしたレストランではないと思います。ただ美味しく味わえる、そういうレストランが素晴らしいレストランです。当たり前のようですが、そんなレストランは多くありません。空調がちょっと寒いだけで、ただ美味しく味わうことはできなくなります。店員が叱られている姿が目に入っただけで、美味しく味わえなくなります。シンプルにただ美味しく味わえるレストラン、その厨房の裏側では大変な努力がなされています。

ただ、シンプルにヨガやピラティスを提供できるように。その為に努力を続けるインストラクターは、必ず誰かの役に立つことができます。そういう人が本当は、一番この社会で必要なインストラクターです。

最初は人前に立って学んできたことを伝えること、それだけで大変です。緊張して、本当に大変です。最初から上手にレッスンすることはできなくて当たり前です。でも、レッスン後に「今日のレッスンで誰も傷つけていないだろうか」と。そんなことを毎回振り返っていくと、身体的にも心理的にも傷つけないレッスンが少しずつできるようになります。毎回反省したり試行錯誤して、少しずつです。そういったことに関心、興味を持っているかどうか。それだけで、随分と未来は違うのです。


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ヨガやピラティスの先生になる人たちへ②
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ヨガやピラティスの先生になる人たちへ③
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ヨガやピラティスの先生になる人たちへ④前編
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