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ep1. 朝の空港へ -サントリーニ島の冒険-

朝6時35分。まだ暗い中外に出るのはいつぶりだろうか。秋のロンドンの朝は憂鬱なほどに暗い。
「ちょっと壊れてるけど、ロンドンに持って帰って使っていいよ」
と母が持たせてくれた布製の小さいスーツケースを転がしながら、ハイストリートへと繰りだす。

コートに身を包んだおじさんがぽつり歩いている。やけに明るい蛍光灯に照らされたダブルデッカーの車内に身を置き、どこぞへ向かう人々。この人たちは、土曜の朝のこんな早くにどこへ行くといいのか。大体そう思う自分もその一人である。

Tube(地下鉄)に乗り、ロンドンブリッジ駅を経由して、南のガトウィック空港へ。ありがたいことに空港まではスイスイといった。ロンドンは皆が出かけたい休みの日を狙うかのように、工事が行われ電車が無くなることも珍しくなく。また、昨今の物価上昇で公共交通機関セクターのストライキが幾度となく繰り返されていたため、何かと不安定であった。そんなロンドンであるが故に、旅のドラマは空港へ到着する前からすでに始まることもあるのだが、今回はスーパーファミコンのレベルワンをクリアするかの如く、難なくたどりついた。

空港の保安検査場をスムーズに通ることには自信がある私は(あなたも?)、経験によって磨かれたクリアーな通過をみせる。関心の頷きを隠せない検査場スタッフを横目に、すんなりとセキュリティも抜け、タックスフリーの香水やらお酒が並ぶ、起きたばかりの人には刺激が強すぎるエリアを通って、カフェやドラッグストアが立ちならぶフロアーへ。

普段ならロンドンの街中で為替レートの良い店に行き、事前に外貨両替をしておくのだが、今回は前日までバタバタしていて余裕がなかった。この空港のことはよく知っていて、外貨両替は同じ会社が2か所でやっているのみ。前回のヨーロッパ旅行の残りで100ユーロは持っていたが、今回サントリーニ島とミロス島の二つの島を周る予定であり、移動に不安があり、タクシーなどに頼らざるを得ないことも考えると。仕方ないが空港の割の良くないレートでももう少し現金を持っていた方が、緊急時に思い切って現金を使える心の余裕ができる気がした。カウンターのお姉さんに、55ユーロ欲しいと伝えると、67ポンドだという。思いっきり損であるが、心の安心にはかえられない。55ユーロを持っていたジップ付きのビニール袋にしまい、近くのベンチで一息つく。

冷蔵庫に残っていた白いご飯をたっぷり詰めて、黒胡麻をふりかけただけの朝食弁当をあける。ただの白ご飯でも、これからの旅の資金を考え節約したい私にはありがたい。全く魅力のないお弁当のはずだが、目の前を通る子どもたちが背伸びして、中身を覗き込んでくる。もちろんこのお弁当は、どこにも売っていないのだが、その眼差しは羨ましそうなのである。お腹が空いているのか?アジア人が箸でつまんでいるその先に何があるか興味深々なのか?人の食べているものは美味しそうに見えるのかもしれない。

落ち着いて座って眺めていると、空港に集まる人々というのは面白いものである。それぞれがDestination(目的地)を持っていて、人々は普段よりも人目に無頓着。自身のことに集中している。小さな子ども連れで、早朝から頑張ってたどり着いたであろう家族も多く。自分のことは後回し・家族優先で準備し、疲れのピークに達していただろう母に、非協力的な子どもたちとその父(夫)が、ガッツリ怒られるシーンが目の前で繰り広げられ、私は心の中で母の怒りに一票を投じた。

もちろん多くの人がホリデーのために空港へ来ているわけだが、忙しい日々を生きる人々が短い日数に詰め込んでホリデーするのも大変だったりする、のであり「ホリデーの後にホリデーが必要」と誰かが言っていたが、よく言ったものだ。

今回の旅のテーマは、計画のないゆったりとした海辺で過ごす時間。果たして私にそんな旅ができるのだろうか。

作り途中のレゴをのこして出発

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
「サントリーニ島の冒険」は、100ページを超える手書きの旅誌をもとに、こちらnoteで週更新をめざしています。

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