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ep0. 出発前夜 -サントリーニ島の冒険-


長年思いを寄せていた旅先へ向かうとき。それはもはや楽しみというより、少し怖いのであった。私のその「旅先」とは、ギリシャ・サントリーニ島。この旅を感化してくれた、二人の人 ~ その話はまた後ほど記すこととしたい。


マリッジブルーとはよく言ったものだが、直前ブルーなど結婚に限ったことではない。人は募る思いを何らかの形にして実行する時、不安になるものだ。うまくいくのだろうか、大丈夫だろうか。思いが募った分、失敗したくない、後悔したくない。そんな気持ちの反面から不安が頭をよぎるのは自然なことのように思う。旅に関してもそう。「休暇でギリシャに行きます」と人に伝えたものなら、「いいね、楽しんで!」との答えしか返ってこない(そりゃそうだ)。当の本人は靴下をスーツケースにしまいながら、緊張の糸を体に張りめぐらせていた。一人、ゼロから計画して、見知らぬ国を動く旅は、数年前のイタリア·スイス·フランス横断以来となる。大変久しく感じられるのだ。

今回、旅の計画で苦労したのは、現地の交通機関にかかる情報がとても限られていたこと。空港から首都Fira(フィラ)までどう行けばいいのか。何度グーグルマップで経路検索しても、「交通機関はありません」との返事。曜日を変えても、時間を変えても。試しに別の都市に行き先を変えても、結果は変わらず。ないってことはないよね?ローカルバスがあるとの情報はうっすら掴んでいたが、運行頻度は?バスしかないなら、ぎゅうぎゅうで乗れないとか?ストライキが多いらしいが、最悪宿まで歩ける距離かな?疑問は後をたたず。いくつかのホテルに、メールを打って移動方法を尋ねるも、どこからも返事はこない。どうなっているのかギリシャよ。「来てみるがいい、旅人よ」という沈黙のメッセージなのか。最悪のところ公共交通機関がない、を念頭におき計画を練る。

そしていよいよ出発前日。新調した度入りのゴーグルを真新しい箱から出し、スーツケースへ詰める。10月 ~ サントリーニ島は泳ぐシーズンではないものの、地中海を泳いでみたかった。そう、実はこれまでの人生、海で泳いだことがない。自然の中を泳ぐのが大好きな、フランス人の元ハウスメイトに大きく影響を受け、私も泳いでみたい、海でも湖でも泳げるようになりたい。それが新たな人生の目標になっていた。子供の頃、地元のプール教室へ通い、4泳法をマスターしていたものの、それからまともに泳ぐことなく、ここまできてしまった。いわばペーパースイマーである。身につけた泳ぎを「自然環境で活かす」というアイディアがフランス人の彼女に出逢うまで、これっぽっちもなかったのだ。当時のプール教室でかぶっていた蛍光ピンクの水泳帽には、サインペンで書かれたひらがなの自分の名前が消えずに残っている。下手な字面に時の経過を感じるものの、頭の大きさはあれから変わっていないのか。それで私の頭(の成長)は大丈夫なのか。いや、ここで余計な心配を増やしてはならない、と私は心配ラジオをオフにする。この水泳帽を最後にスーツケースのジップを締め上げる。私はやるのだ。

心配性でも行きたい気持ちがあれば旅はできる

朝の空港へ向かう、旅の始まりはこちらです!


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