見出し画像

【感情紀行記】自給自足

 少しずつ時が過ぎ、誕生日を迎えることを、年齢を重ねるという言葉が相応しくなってきた。そろそろ独り立ちも視野に入れなければいけないこの年齢に、危機感を覚えた。今すぐに全てを自分でできるようにならなければいけないわけではないものの、この状況で練習しなければ、惨事を引き起こしかねない。

 そういうことで、まずは人間の基本、食事作りを始めた。今まで、趣味と言える料理などは作ってきた。簡単なクッキーやスコーン、いちごジャム、チャーハンなどだ。他にも、簡単な朝ごはんくらいは自分で作ることができた。いわゆる、家庭科の料理である。派生系として、お昼ご飯や夜ご飯になるかもしれないものとしては、すき焼きや麺類などはなんとなく簡単にならできる。しかし、このままでは一人で生活するには満足とは言えない。自炊というものが現実味を帯びた今、せめて自分の好きな料理くらいは作れるようになろうと決心したのだ。

 まず、具材の調達から始めたのだが、予想以上に高くついてしまった。二人分でも、一人1000円程度と、外食できる程度になってしまった。調味料や、余った具材もあるものの、なんだかやる気がなくなってくる。実際に料理に取り掛かると、父親も「趣味の料理」が好きなのだが、それがわかってくるような気がした。遺伝である。ちなみに、「趣味の料理」というのは、決して日常的に作らないし、それだけでは満足しないけれど、調理過程に楽しみを感じ、完成度が比較的高いもののことだ。勝手に自分で命名して使っているだけなのだが。調理の面白さは、味を組み立てていくことにあるのかもしれないと思った。なんの知識もないが、言われた通りに調理し、具材を入れていくと、色や匂いがどんどんと変化していく。単体ではとても食べることができないようなものが、奇跡的な組み合わせで素晴らしく美味しい料理へと変化した。

 しかし、現代というのはすごい。作りたい料理をインターネットで調べ、画面の中の人と一緒に作っていけば、本格的な料理が簡単にできてしまうのである。作り方がわからない、などという平易な言い訳はもはや通用しない。自分で作った料理を頬張り、腹を満たした。おまけに家族にも褒めてもらえた。まだまだ研鑽は足らないものの、大きな一歩を踏み出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?