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040_新卒はなぜ会社を辞めるのか


今回の記事は「036_夢という汚染」の続きになります。

某オフィスの片隅。時間は午後9時。
チームリーダーは部下に対する評価を延々と評価シートに入力している。その横では女性のサブリーダーが業務報告を入力している。

2人とも無言。コロナ以降、オフィスでの無駄口はマイナス評価を与えるという訓示が出て以来、必要な事すらも口にしない。それともう一つ、昼間2人は新人の女子社員から辞表を受け取り、面接を行ったがその余韻が頭に渦巻いているからだった。
「…あんな奴ばっかだな」リーダーが呟いた。
「しょうがないじゃん」サブリーダーが手を動かしながら言った「あの子にとって、うちはそういう会社だもん」
「あいつ、辞めてどうすんだ?」
「言ってたじゃん。英語の勉強をし直すんだって」
「英語を勉強すれば上に行けるわけ?」
「少なくとも、ここにいたんじゃ上には行けないよ」
「…でも、うちは急成長のIT企業だよ。一応さ」

サブリーダーは手を止めた。
「売り上げは上がっているし経営的には嬉しいけど、それと新人の将来性を天秤にかけたらどうなるかって問題よ」
リーダーは腕を組んでしばらく考えた。
「色々な会社がさ、続々とインフォメーション部門を見直して強化しているよな。旧システムから脱却して新システムを導入、社内インフラを刷新。そのサポートをしているうちの会社が新人にとって将来性がないのかよ」
「は?」サブリーダーは肩をすくめた「そのクライアントの経営者はほとんど60代以上のおじいちゃん。システムの発注窓口のおっさんはド素人の上勉強不足。無いものねだりの挙句に値切るのが役目。現場への講習会はPCの基本的な操作から。質疑応答は愚問のオンパレード… 提供しているものはほとんどが既製品のカスタマイズ」
「…銭になればいいだろが」
「わからないの? まったくシナジーがなく、10年後にはおそらく消えているであろう人間をクライアントにしていたら、その新人の10年後はどうなるの? あたしもリーダーも、もう入社して長いから、この先もこれをやっているかもしれないけど、この現実が見えちゃった新人には無理だよ」

*    *

かつて、終身雇用や日本型経営が健常だった頃は、先が見えてしまった新人が残る意義は多少でもあったと思います。お金が儲かれば、あるいは経営が続けられるのであれば、その職場で働き続けるモチベーションが湧いたでしょう。でも、もう時代は違います。

これからの企業は、事業を継続する上で新たな価値観を求められています。つまり新人のキャリアプランに沿っている会社かどうか。という事で、本当の意味での「将来性」です。それがないとスタッフが継続しません。幹部候補の有能社員を育成する事ができず、短期ルーティンで非正規雇用のスタッフを循環させて業務を消化する会社となります。

そんな会社(実は多いのですが)とは知らず、大卒新人はとにかく当面の就活を勝者として乗り切らなければなりません。100社、200社に応募するうちに、採用そのものが偶発の産物になります。嫌な言葉で言えば「就活ガチャ」ですが、春をリクルーターで迎え、現実が見えた時点でその会社はキャリアアップの材料にはならないので「英語、資格、プログラミング」で挽回を図ろうとします。

*    *

「終わった」サブリーダーはPCをシャットダウンした。「帰りま~ス」
「何か、…可哀そうだよな」リーダーがボソッと呟いた。
「どっちが?」

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