【おはなし】 そのころ、サカナは
空気中に漂っているチリやほこりに混じって、ぼくの近くでは、サカナが浮かんでいる。
色は透明、形は日替わり。
そんなデタラメな生命体は、どういうわけかぼくのことが気に入ってるみたいだ。
いろいろ飛んでくる春。
マスクをつけて防御力を高めるかわりに、ぼくはノーガードで地球を歩いている。雨が降るときにはカサをさすけど、紫外線とか小さな砂とか、そういった目に見えないものはサカナがパクパク食べてくれる。
そのお礼にぼくがサカナにお返しをするのは、彼らの存在を認めてあげること。
いるのか、いないのか。
ときどき光の反射加減でその姿の一部がぼくの目にも見えた気がする。
いるのか、いないのか。
それは、ぼくの気持ち次第。
家の中でぼくがサカナを呼ぶことはめったにないんだけど、今はぼくの部屋の中でサカナがぷかぷかと泳ぎながら洗濯物についた汚れを食べてくれている。
ベランダで干していたお布団を目掛けて飛んできた嫌なにおい。せっかく干していたお布団がなんだか汚れてしまった気分になってしまったぼくはサカナの存在を思い出した。
「ぼくの部屋、広くないけど遊びに来てくれる?」
・・・
「お布団がね、なんだか汚れた気がするんだ」
・・・
「だからね、いつもみたいにお願いです」
・・・
「ありがとう。じゃあ、ぼくはお昼ご飯を用意するから、なにかあったら呼んでください」
・・・
部屋の中に取り込んだお布団を室内干しにしてから、ぼくはお昼ご飯の用意を始めた。
そのころ、サカナは、お布団に付着した汚れを食べてくれているとか、いないとか。
サカナがいるのか、いないのか。
本当はどちらでもいいんだけど、なんとなく、おまじないや、占いみたいに信じた方が楽しそうだから、ぼくはサカナの存在を認めることにしている。
ほら、目を閉じなくても、見えるような気がするでしょ?
なんとなくだけど。
おしまい