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言語学を学ぶ⑥ | 特別編 | エッセイ | 象は鼻が長い

 誰からも期待されていない、シリーズ「言語学を学ぶ」。
 第6回目のこの記事は、三上章(著)「象は鼻が長い」(くろしお出版)のタイトルを拝借して、エッセイ風に書いてみたい。

 象は鼻が長い

 日本語を学ぶ外国人から、「『象は鼻が長い』という文の主語は何か?」と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか?
 「象は」を主語ととらえる人も、「鼻が」を主語ととらえる人もいるかもしれない。あるいは、日本語には「主語がない」と答える人もいるかもしれない。

 主語があって、動詞があって、そして、品詞があって、、、という説明の仕方は、古代ギリシア語から現代英語まで、主にヨーロッパ系の文法学の遺産である。それを日本語にそのまま適用できるわけではない。
 英語の語順は一般に「SVO」(主語、動詞、目的語)である。5文型がある、と文法書にあるが、いずれにせよ、主語の次に動詞が来て、それ以外の要素は後置される。
 日本語を英文法に当てはめれば、「SOV」(主語が最初に来て、動詞が最後に来る)ということになるが、主語らしい主語のない文はざらにあり、「学校に行きました、私は」というように主語を最後にもって来ても、ことさら違和感はない。

 三上章「象は鼻が長い」という本は、そのほとんどが「は」の説明に費やされている。
 三上によれば、日本語で典型的な文(センテンス)は、「Xハ」で始まる題述関係の文だという(前掲書p8)。公式として一括すれば

「Xハ、ウンヌン」🤣。「Xハ」を「主語」とは言わず、題目の提示に過ぎず、だいたい「Xニツイテ言エバ」の気持ち。

「象は、鼻が長い」ならば、どれが主語であるか、という問題の立て方自体がおかしいのかもしれません。「は」は主語を表すものではなく、「題目」(文のトピック)を示しているに過ぎません。

 三上流にいえば、「象は鼻が長い」とは、「象について言えば、鼻が長い」ということになりますね。

ちなみに英語で、「象は鼻が長い」と言うとしたら

An elephant has a long nose. 
Elephants have long noses.

となるでしょう。

Talking of elephants, their noses are long.
でも文法的には、いいかもしれませんが不自然だと思います。

 日本語と英語とは、異なる言語ですから、異なる文法の説明の仕方があってもいいかもしれません。


 英語を日本語にするときの微妙なニュアンスの違いを表すのが難しいのは、「が」と「は」ですね。


①私「は」その事について彼女に言いました。

②私「が」その事について彼女に言いました。

英語にするとどうなるでしょう?

① I told her about that. 

② It is I that told her about that. 

 ②は、敢えて「が」を訳すとすれば、「強調構文」を使えばいいのですが、①の日本語も②の日本語も、①の英語でいいような気もします。

 あるいは、
「私『が』その事について彼女に言いました」は、

I myself told her about that. 


まとめ

 英語と日本語は、文章として見た場合、一対一対応にはなっていない。系統の異なる言語を同じ文法の枠組みでとらえることは難しいのではないだろうか?

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