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連載小説(26)漂着ちゃん

「エヴァ、今日はよく来てくれたね。あいつには、私が父親であることを話した。今頃あいつはナオミとこれからどうするのか話し合っていることだろう」

「そうですか。とうとうお話になったのですね。彼はきっとナオミとも、あなたとも、そして私とも共存することを考えるでしょうね」

「だろうね。私はそれがいちばんいいと思っているが、君はイヤなんだろう?あまり言いたくはないが、君は自分には子どもなんてできないと思っていた。だからこそ、愛するあいつとナオミとの間に子どもが生まれることを望んだのだから。しかし、あいつと君は結ばれて、出来ないと思い込んでいた子どもが生まれた。マリアは愛の結晶だ」

「はい、私はあの人とマリアとともに平穏に暮らせることを望んでいます。元々は私がまいた種ですが、マリアが生まれてからは、ナオミとヨブのことが憎らしくてたまらない」

「その気持ちは分かるような気がする。私にも責任がある。あいつと君が出会うことを許したのだから。私のことも憎んでいるかね?」

「いえ、そのような気持ちはありません。むしろ、あの人と私とを結びつけてくださったのですから。恨むとすれば、子どもなんて出来ない体だと思い込んでいた過去の私自身のことです」

「そうか。それで、君としてはどうしたいのだろう。ナオミとあいつが他の時代へ行くことをお望みだろうか?」

「いえ、あの人にはここに残ってもらいたい。この時代から出ていってほしいのは、ナオミとヨブです。あとはどうでもいい、というのが正直なところです」

「それが今の君の答えなんだね。私が裁定してもよいが、その前にあいつとナオミと話し合いの場を設けててもいい」

「話し合って、私が満足するような結果が得られるとも思いません。所長はこの町の掟そのもの、いわば神のような存在です。ですから、神であるあなたが結論を導くのが最善だと思います」

「エヴァ、たしかにそうなのだが、神とて悩むものなのだよ。神は万能なんかじゃない。事前にどういう結果をもたらすのかということは、神にさえわからない。迷い迷い決断を重ねているんだよ」

「神様って、完璧な理性的存在だと思っておりましたが、そうではなさそうですね。とても人間くさいというか…」

「ははは、たしかに。実際に私は神ではなく、かつては生身の体を持った人間だったからね。体を持たないAIという存在になっても、人間であることには変わりないのだろう」

「それで、私はどうしたらよいのでしょう?あとはあなたの裁定を待つだけでよろしいのでしょうか?」

「いや、私としては、君とあいつとナオミを交えて、話し合いの場を持つことを考えている」

「今すぐ、というわけではないですよね。私にも心の準備が必要ですから」

「わかった。その気持ちを尊重しよう。気持ちが固まったら、またここへ来てほしい」

「わかりました」


…つづく


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