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短編 | 詩と真実

 詩と暮らすようになってから10年が過ぎた。

 思い起こせば、僕たちの恋愛は、「じゃない、じゃないの繰り返し」だった。

 僕が冗談のつもりで、

恋愛は
「じゃない、じゃない」の
繰り返し

なんていう川柳を作って聞かせると彼女はすぐに、

恋なんて
否定神学
ごときもの

なんていう返歌の川柳を即興で作ったことがあった。

 冗談のつもりとはいえ、その言葉の中には、若干の真実が含まれていたかのように思う。

 僕がどんなことを言っても、彼女からかえってくる返事は、「そうじゃないと思う」というものばかりだった。

「幸せとは、きわめて感情的なものである」と僕が言えば、
「幸せとは、きわめて理性的なものである」と彼女。

「幸せってね、ふとした瞬間に理性で感じるものだと思うわ。なにか大きなことを達成して、『やったぁ』と叫びたくなるような沸き立つ感情は、一時的なものであって持続することなんてない。それは、喜びであって幸せじゃない。幸せっていうのはね、たとえば、仕事のない休日にコーヒーを飲んでいるようなときに、『はぁ、幸せかもしれない』なんて感じられることじゃないかしら?大きなことを達成したときじゃなくて、些細なことに理性的に感謝できるというか…」

「あぁ、かもしれないね」

 真実というものは、両手で握りしめられるような、なにかソリッドなものなんかじゃなくて、詩の中に含まれるような、なにか淡いソフトなものなのではないだろうか?詩のようなものの中にこそ、真実が隠されているのだろう。

今もし彼女が目の前にいたら、
「詩の中に真実はあるものじゃない!」と、きっと否定神学的なことを言うのだろう。懐かしいな。もうすぐ、僕もそちらの世界へ行くから待っていておくれ。


(おしまい)


https://note.com/komaki_kousuke/n/n5fbad3495bb7


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