連載小説(34)漂着ちゃん
朝になった。
「そろそろ帰ったほうがいいわね。甘美な一夜になりました。ナオミさんも心配しているでしょうし。朝食をとったら、私が送ります」
「いろいろお世話になりました。これから、私たちはまた会えるだろうか?」
「もう所長はいませんしね。あなたが良ければ、マリアと一緒にいてくださったら嬉しいですけど。しばらく、ゆっくり休んで考えましょう」
エヴァと一夜を明かしたことで、私には不思議な感覚が芽生えた。この町ではじめて出会ったのはナオミだったが、会話をはじめてしたのはエヴァだった。本当ならば、私が結ばれるべきだったのは、ナオミではなく、エヴァだったのではないかと。
ナオミと収容所で一緒に過ごすことになって、私にはナオミが妻であるという意識をもっていた。そして、ヨブというはじめての私の子供ができた。しかし、ナオミとヨブとの幸せな生活の中でも、エヴァのことは常にあった。
久しぶりにエヴァと体を重ねたとき、エヴァこそが私の求める女性だという気持ちが沸き上がった。私の帰るべき場所は、ナオミではなくエヴァなのではないか?
「エヴァさん、もし私がここにずっといたいと言ったらどうしますか?」
「それは嬉しいことです」とエヴァは即答した。
「じゃあ…」
「いえ、今はその時ではありません」
「『今は』というのは?」
「将来的には、あなたと一緒にいたいと思っています。マリアもいますしね」
「ナオミとヨブについてはどう考えていますか?」
「ナオミさんのことは未定ですが、ヨブくんには重要な役割があります」
「ヨブに?まだ子供ですが…」
「この町には、今のところ男は、あなたとヨブくんしかいません。『漂着ちゃん』は今のところ、女性ばかりです。これから男の子が流れて来る可能性はありますが、この町の繁栄のためにはもっと男が必要ですね」
「ヨブに、いわば聖書のアダムの役割を担ってほしいということですか?」
「もちろん、あなたはこの世代のアダムですが、次世代のアダムになるのはヨブくんしかいませんね。私は将来的には、マリアとヨブを結婚させたいと思っています」
「結婚?腹違いとはいえ、兄妹ではありませんか?」
「そうですよ。しかし、今現在、ヨブと結ばれる以外に選択肢はありませんね?そうでしょう?」
「まだ、先のことはわかりません。それこそもっとゆっくり考えるべきことではありませんか?」
「いえ、これは誰がこの町の指導者になるにしても避けられないことです」
私はエヴァの言葉に戦慄した。
「とりあえず、今はナオミさんのもとへお戻りください。私には他にやらなければならないことがありますから。ではこれから、収容所まであなたをお送りいたします」
…つづく
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