神話物語 | 霧の女(最終話)
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私の体には、いったい何人の霧の女が宿ったことだろう。
最初の3人の霧の女の記憶は今も私の心臓に深く刻まれている。
20人の霧の女が宿った頃までは、数を数えていたが、そのあとに宿った霧の女の人数さえ、今は曖昧である。
おそらく既に50人以上の霧の女が私の心臓にとどまっている。
「なんかさぁ、今も『霧の女』って神出鬼没してるけど、どこまで本当なんだろうね」
図書館の郷土史料室で、未唯奈が尋ねた。
「みぃちゃんはどう思う?最後に『霧の女』が出没してから、今年でちょうど30年になるね。模倣犯だか愉快犯だか分からないけど」
「みぃが思うに、最初はホントに『霧の女』っていたのかもしれない。だけど、30年ごとに現れる霧の女らしきブームは、都市伝説に乗っかった人たちの自作自演じゃないかなぁ。青く光って心臓になるとか、普通にあり得なくない?」
私はみぃの言うことは至極まともなことに思えた。
「だけど、みぃちゃん、霧の女を目撃して、調査して追いかけた男が死ぬことが多かったのは、どう説明したらいいのかな?」
「それはたまたまなんじゃないのかぁ。二度あることは三度ある、じゃないけど、同じことが二度、三度と続けば、人間はそこに何かしらの因果関係を見いだしてしまうでしょう?。ホントにたまたまなんだろうけどね」
「みぃちゃん、じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん」
私たち二人は図書館をあとにした。
「なんか伝説っていうか、神話みたいなお話って、それを信じる人がいるから作られるみたいな感じがするね。最初の話に尾ひれがついて、どんどん話が広がっていく、みたいな」
「そうだね。今日も楽しかったよ、みぃちゃん」
未唯奈の家が見えてきた。
「ねぇ、今日は未唯奈のうちに泊まっていかない?」
「嬉しいけど、まだみぃちゃんと知り合ってから、そんなに時間が経っていないし」
未唯奈は、悲しそうな表情を浮かべた。
「未唯奈のこと、キラいなんだね」
「みぃちゃん、そういうことじゃなくて…」
未唯奈をなだめようとしたとき、未唯奈の体は徐々に青い光を放ち始めた。
私は心臓を握り絞められたような感覚に陥り、その場に倒れ込んでしまった。
…らしい。
私は薄れ行く記憶の中で、遠い遠い世界までやって来てしまったのだなぁ、と。
私の体も徐々に青さを増している。
手も、足も、体も、何もかも。
最後には、目だけを残して、みんな青の世界一色となった。
…『霧の女』完
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