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ただ、美味しいご飯が食べたいの。

テッテテレテー、テレテレテー、テッテテレテレテレテレテレテー


「川っぺりムコリッタ」という映画を見て、1カ月以上が経過するけれど、歩いている時にいまだにふと、この映画の主題歌が頭の中を流れる。


頭の中にあるもやっとしたものをカタチはそのままで、然るべき場所に収納してくれる。口ずさむだけで、なんとかなる気がしてしまう。
そんな雰囲気は、曲だけでなく映画全体に広がっている。

(作品のネタバレを含みます)



「川っぺりムコリッタ」
地元の映画館で広告チラシを見て、なぜか惹かれた。男性3人と女性1人が川の近くでただ立っている姿に。
荻上直子監督とムロツヨシさん、松山ケンイチさん、満島ひかりさん、吉岡秀隆さんが作り出す作品ってどんなものなんだろう。「友達でも、家族でもない。でも、孤独ではない。」ってどんな関係性だろう。

荻上直子監督のことは、「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」という作品で知った。作品からも滲み出る、強い芯のある方だ。そんな彼女のお気に入りの記事がある。私の心にぐさっと刺さった彼女の言葉。私の軸がブレそうになった時、見返したい記事。


荻上直子監督を筆頭とする映画。

この映画の主な登場人物は4人。
更生し誰とも関わらず生きていこうと北陸に移り、「ハイツムコリッタ」に住むことになる山田(松山ケンイチ)さん。
容赦なく山ちゃん(山田)の家に上がり込んでお風呂に入って、おかずを持ち込んで一緒にご飯を食べる島田(ムロツヨシ)さん。
亡き夫を愛し続け、娘と2人暮らしをするみんなが住む「ハイツムコリッタ」の大家、南(満島ひかり)さん。
息子とふたりで墓石を売り歩く溝口(吉岡秀隆)さん。びしっとスーツを着ていたり、「笑顔で過ごしていらっしゃいますか?」と作り笑いで問いながら墓石の広告を持っていたり、息子がまるでロボットのようであったり、なんか違う、という違和感がある。ここが変!って言えないところがもやっとなのだけど。


そして、

とにかく、ご飯が美味しそうなのだ。
見た目だけでも美味しそうなのに、山ちゃんと島田さんのご飯の匂いの嗅ぎ方、2人の食べ方、2人のたわいもない会話、がさらに美味しそうにしている。

私も、すき焼き食べたい。
私も、塩辛食べたい。
私も、白米食べたい。

私の部屋に、ご飯食べよー!って島田さんが網戸を開けて乗り込んできてくれないかな。

(まずい、お腹がなってしまった。今は深夜なのですが、深夜にご飯の話題は禁物でした。)

そんな中、所々散りばめられている各々の暗い部分がある。
島田さんが過去のトラウマから嵐の夜に荒れ狂う様子とか、南さんが亡き夫の骨を口にする様子とか、山田さんが長らく連絡をとっていなかった身寄りのない父の遺骨を泣きながら潰す様子とか、

そういうその人だけの弱っている行動がある。
だからこそ、ご飯を食べたりお風呂に入ったり笑ったり、そういう日常生活が際立って見える。


明るいけど暗くて、軽いけど重い。

これが、この映画を表す精一杯の言葉。
心の中に残っている映像ははみんなの笑顔とか美味しくご飯を食べている様子なのに、残っている感覚はずしっと何か大きな岩が乗っかっている感じ。
ただ、「この映画いいよね!」そんな一言では片付けられない。気がついたら人間というものの表裏に、明暗に、弱さに、強さに、触れているから容易に「見てね!」とも言えない。見るのに覚悟がいるのかと言うとそうとも思わないけれど、心に残り続ける作品にはなるのではないかな、と思う。辛い時、支えてくれる作品として。

※「ムコリッタ」とは仏教用語で、約48分(1/30日)を表す。同じ系統の最小単位が「刹那」。


少しだけ、私のとても美味しかったご飯の話をしようと思う。

それは、最近。

様々なバックグラウンドからやってきたユニークな人たちとのお話。表面的な意味で用いられる「タヨウセイ」を謳うのではなく、本当にひとりひとりをそのままで受け入れる懐の深さがある場所。適度な距離感で織りなす空間は、穏やかで心地良かった。気がついたら、「楽しい」という感情をもって笑っている私がいた。

友達でも、家族でもない。でも、孤独ではない。

そんな関係性。
保たれた距離が温かい。

そしてね、

「ご飯ってね、ひとりで食べるより誰かと食べたほうが美味しいのよ」
島田(ムロツヨシ)さんの一言




さいごに、お気に入りのメイキング。

どうして、この映像をじーっと眺めてしまうのか、分からない。謎の魅力がある。


さいごのさいごに、
経験とこの映画から教えてもらったこと。


映像作品に至るまでに長い時間がかかってしまったり、コロナ禍で延期になってしまったり、恐らく様々な壁を乗り越えたこの作品。
それでも、製作陣の「映画にして、届けたい」という強い思いがここまで辿り着かせたのだと思う。


この映画が存在することに、感謝を。


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