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あみ奥様ストーリー①

「マサルちゃん! どう? 例の話、考えてくれんか?」
 作業終わりに事務所に戻ると、社長がフランクに尋ねてきた。
 いよいよ答えを出す時か。腹を括り、社長と目を合わせて口を開いた。
「わかりました、やりますよ。俺が一番長いですもんね」
「おー、そうか! いやいや、腕のいいマサルちゃんだからよ。そんじゃ、俺と一緒にもっと忙しくしてもらおうかね」
「はは……」
 半ば乾いた笑いに、社長はニヤリと笑っていた。
 刈谷 大(かりや まさる)、40歳。若い頃に塗装職人の道に入って、もう20年は超える。
 勤め先の社長から跡を継がないかと打診され、迷った末に俺は継ぐことにした。自分で会社を立ち上げることを夢みたこともあったが、この会社や後輩との作業も居心地は悪くない。
 この社長も偉ぶったところのない良い人だが、人使いが荒いのが難点である。
 そして、繁忙期にあたる秋が終わると俺はくたくたに疲れ果てていた。

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