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かおる奥様ストーリー⑤

家までの短い帰路を辿りながら、俺達は他愛もない雑談を交わしていた。時折仕事の愚痴も混じってしまったが、かおるさんは嫌な顔ひとつせず肯定してくれる。癒し系という言葉通り、俺は気付けば昔から彼女を知っているかのような気持ちになっていた。根本的に解決することは出来なくとも、こうして共感してもらえるだけで心が軽くなるものだ。家というプライベートな空間でなら、もっと彼女を知ることが出来るだろう。
 そうこうしているうちに待ち合わせ場所から家に着いており、普段は少し遠く感じる道もあっという間だった。
「なんか話してるとすぐ着いちゃったな」
「私もそう思います。初めて会ったのに、前から知り合いだったみたいですね」
 そう言って微笑むかおるさんの表情は、まさに穢れを知らない女神のようだった。緩やかに上がった口角、少し垂れ気味になる目元。女優やモデルを目指してもおかしくない程の美しさだが、この女性には人と話す職業の方が向いているのかもしれない。
 そんなことを考えながら鍵を開け、俺達は部屋に入るのだった。

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