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悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達2

こんにちは。
「墓の魚」オーケストラ作曲家です。

ハロウィン🎃なので、
前回に引き続き、
私の書いた地獄の物語(演劇の戯曲)
【悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達】
を少しずつ掲載していきます。

前回のお話はこちらです↓↓




↓↓↓

<グローデンフェルト神父が、登場。
教会へ向かっている>


**グローデンフェルト**
今日はどうも不気味な日ではないか?
こんな日だ。
ローデンシュタインの様な
悪霊が彷徨い歩くとされているのは。

見ろ。
なんと不吉な雲だ。
死者の吐息が肌に纏わりついて離れぬ。
こんな夜は蝋燭を絶やしてはならぬ。
自分の罪に怯える者には、
あらゆる人間の罪業が見えるだろう。
この悪臭放つ沼の様な空気が、
私を何とも憂鬱な気分にさせる。
そう。これは人間の感情でいう後悔というやつだ。
世界は人の後悔で出来ているのではあるまいか?
そう、無数の人間の後悔の感情が、
この血の様な夕焼けを、
カモメの不吉な悲鳴を生み出すのだ。

怪物とは物理的な獣ではない。
この業の中に人間が垣間見る己の魂への憐憫なのだ。
それを我々は見るのだ。
それは自分自身の姿とも知れぬ。

<グローデンフェルト神父、
教会に入っていく>

<真夜中、
グローデンフェルト神父が、
真夜中の礼拝堂で祈っている。
どこからともなく、悪霊達のコーラスが響き渡る>

<暗闇の中より、ランタンを持った悪霊達の登場。
歌い出す>

**悪霊達**
ポルトガルの歌を・・・

**グローデンフェルト**
誰だ?

**悪霊達**
歌ってやろうか?
知った顔で・・
どうせ奴らにゃ・・

**グローデンフェルト**
一体、この声は

**悪霊達**
作れない・・・

**グローデンフェルト**
何処から聞こえてくるのだ?

**悪霊達**
年老いたのさ!!

**グローデンフェルト**
おお、主よ!!

**悪霊達**
その者、最も残酷な娘達の棟梁なり


<大きな音がする。
木の扉が割れる様な>

**グローデンフェルト**
おお!! なんだ、この声は!?
これは、地獄の声!?
死者達が私を地獄へと誘うのだ!!

<悪霊達の中から小柄な娘が前に出る>

**悪魔ビビコット子爵**
初めまして、神父様。
あたいの名はビービーコットと申します。
子爵の爵位を持っているの。
地獄の肥溜めの王の娘なのでございます。

**グローデンフェルト**
おお、片足だけ靴を履いているという事は、
この少女は地獄の悪魔なのだ!
なんと恐ろしい!!
口から蜥蜴が這い出しているではないか!!
悪霊が私を地獄に連れ去りに来たというのか!?
主よ!! お守り下さい!!

**悪魔ビビコット子爵**
何を祈る事があるのです?
まずは、旦那様、
その不快であさましい祈りをやめて
私達の呪文を邪魔しないでくれませんかね?
それから私達は
「象徴の死体置き場」(ル・シャルニェ・ド・サンボレ)から来た者。
すなわち、アナタの妄想でございますよ。


<悪霊達が歌いだす>


**悪霊達**
ポルトガルの歌を歌ってやろうか? 知った顔で
どうせ奴らにゃ作れない、
年老いたのさ!!
その者、最も残酷な娘達の棟梁なり

**グローデンフェルト**
おお、悪霊が私を地獄へ誘うというのか!?
少女の姿をした悪魔が私には見える!!

**悪魔ビビコット子爵**
あー、なるほど。
確かに私は悪魔ですがね。
何もあなたを
八つ裂きにしに来たというわけじゃないから、
御安心いただけないものでしょうかね?
と言っても無理でしょうか?
何にでも証明が必要ですね、私達の世界では。
何が真実なのかご自分で判断できない者には、
紙切れが必要なんでございましょう。

私はね、旦那を地獄にお誘いに来たのです。

**グローデンフェルト**
やはり私を地獄に連れていく使いだったか。

**悪魔ビビコット子爵**
いえいえ。
連行ではなく・・・。
お誘いです。
そもそもご安心下さい!!
何たって私達、妄想ですからね。
まず、旦那は地獄の舞踏会に招待されても
おかしくないと思わないですか?
心当たりないですか?
私の思い違いだったら悪いんだけど。

ふふ。
まぁ、確かに、
一昔前ならば私も
こんな労働など御免被っていたんだ。
でも、地獄も・・また、我々の領主も・・・
時代と共にいろいろ事情が変わったのです。

**グローデンフェルト**
地獄の住民が少なくなったからと、
勧誘に来たのか!?
そうだな。
確かに私は罪人だ。
さすが私の妄想だけあって、
よく私の事をご存知というわけだ!!

**悪魔ビビコット子爵**
あはは、違う。違いますよ。
地獄の罪人どもの数なんて
今も昔も変わっちゃいないのです。
こういうものは人間が人間である限り、
変化するものではない。
なんというか、魂が
ある一定の段階以上には到達できないように
上手くできているんでしょう。
逆に、町の老人共は、やれ昔はよかっただの、
もっと素朴な時代があっただの言うけれど、
そんな時代がいつあったのでしょうか?
罪人の数、善人の数は、どの時代でも変わらないし、
時代精神が変わろうとも、
それにお年寄り達がついていけなかろうと、
それは地獄の鑑賞する所ではないのよ。
そうではなくて、
人間共が地獄に対する想像力を
多少ユーモアを交えて働かせられるようになり、
逆に、学問や文明が生み出され、
そういった幻想が半信半疑になった事で、
我々があなた達と
話し合いをしやすくなったのです。
つまり、紳士的にね。
地獄には地獄をおさめる領主がおりましてね、
ちょっくらお近づきになれば、
あの美青年を手に入れる事なんて
雑作もないことなのですよ?
だから、彼も共に連れ去ってさしあげたらどうかと、
差し出がましい事ですが、
誰かが地獄で思った次第なのでございます。


<悪霊達が歌う>


**悪霊**
偽善ぶった善人が!!

**墓場犬**
社会主義を

**罪人の魂**
唱えながら

**ウジ虫達**
ほら神父、左側の崖に落ちていくよ

**悪霊**
気をつけな! 若さゆえに理想主義!

**悪霊達**
いけ好かない正しさに溺れてる

**共産主義者の霊**
その女の楽しみは否定と秩序の維持

**芸術家**
新しい事を恐れる

**悪霊**
気をつけな 才能が無い者は

**悪霊達**
秩序の維持に精一杯!

**悪魔ビビコット子爵**
政治家は 貧困に噛み付いて血をもらう
あら聖書も説教も大好きよ
神様を我々は愛してる
罰せられる時は快楽よ

**悪霊**
伝統を背負いたがり

**墓地の成金の死体**
何一つわかってない!!

**悪魔ビビコット子爵**
歌い手も、宣伝屋も小物だわ
私こそが地獄の真の王!!

**悪霊達**
最も愚かな小さい子!!

**グローデンフェルト**
おお神よ 悪霊が私をたぶらかす!
聖書も信仰も脱ぎ捨てて!

**悪霊達**
若い時はもうちょっと遊ぼうよ
右に行けど、左行けど、地獄行き

<グローデンフェルト神父、
憤慨して叫ぶ>

**グローデンフェルト**
馬鹿げた話だ!! 悪霊め!!
この私の神聖な気持ちを、
汚らわしい術で邪魔しようと言うのか!!
汚れなき想いには、悪霊など介入する事はできないのだ!!
さっさと立ち去るがいい!!

**悪魔ビビコット子爵**
愛しい人と手をつなぎたいとか、
思いを伝えたいとか、
きれいな子の香りを嗅ぎたいとか、
そういう平凡な気持ちをも神聖視しますか?
神学を勘違いしてはだめですよ。
罪なき戯れじゃないですか!
何もあの子を侮辱しようってんじゃないんだから。

**グローデンフェルト**
ならば、私の汚れた罪をあざ笑いに来たか!!
衆道の罪を!!

**悪魔ビビコット子爵**
衆道の罪ね。
実際、それがどの程度の罪だと
思っているのですか?
本当を言うと、私も詳しい事は知りません。
ただ、その手の罪を
最も嫌うのは私の友人達ではないですね。
まぁ、仕方がないでしょう。
だって、人間ってめんどくさがり屋ですから。
無難なものを好むというか。
冒険をしてみたい、平凡が嫌だと言いながらも、
自分は一番安全な所で腰を下ろしていたいのです。
火傷するのはごめんなのです。
非日常を求める振りをしていても、
冒険の持つ、ほんの一瞬の
火薬の香りだけを嗅ぎたいのであって、
それが終わったら、
やっぱり、自分の平凡な寝床へ帰って眠りたい。
だから、新しい哲学を発見する奴とか、
俺は掃き溜めが好きだなんて言う奴は
めんどくさくてならないってわけでしょ。

**グローデンフェルト**
罪を定義するのは神はないか!!

**悪魔ビビコット子爵**
さぁ?
わたしは神ではなくて、所詮、霊ですからね。
汝の罪は罪にあらずとは言いませんけどね。
でも、この長い人生で、
一度もそう考えた事もないというのは、
ちょっと気の毒になってしまうわね。
思いつくあらゆる事を考え、
思いつくあらゆる事を試すのは、
私達が人生の可能性を閉ざしてしまわない
唯一無二の手段なのに。

**グローデンフェルト**
可能性を閉ざしてしまわない方法など、
今までさんざん考えて来た!!
自分の恋心を否定し、
兄弟としての愛情なのだと信じようともした!!
また、ある時は自然主義に傾向し、
ある時は哲学を紐解いてもみた!!

**悪魔ビビコット子爵**
あはっ!
犬の哲学を?

**グローデンフェルト**
まさか!!

だが、違うのだ!!
どうしても、先に見えるのは救いの無い地獄なのだ!!
異端であり、正道から踏み外した行為なのだ。

**悪魔ビビコット子爵**
そりゃ、打つ手はありませんな。
旦那の場合、神聖を誤魔化す方法を考える気が
最初から無い様ですし。

**グローデンフェルト**
主の目を誤魔化す方法などがあるはずがない!!
主は万能なのだ、悪霊!!

**悪魔ビビコット子爵**
確かに!!
それは我々も、魂に刻み込まれている事実ですとも。
だけれど忘れては困るのが、
地獄もまた神の管轄であり、
とすると、あなたの罪を作り上げたのも
神って事になるわよね?

**グローデンフェルト**
残念だが、そういう議論をするのは禁止なのだ。
特に悪霊とはな。
そういう話は、我々のような
狭い視野でしか世界を見れない生き物には
何の意味ももたらさないからだ。

**悪魔ビビコット子爵**
奇遇ですね。
我々の世界でもこれより先の話は禁止なのです。

**グローデンフェルト**
そうなのか?
なるほど、その先の話を聞きたい欲求に襲われるものだ。
仮にお前が私の妄想なのだとしても。

**悪魔ビビコット子爵**
それはそうでしょうね。
ただ、私の言いたいのは、
神は万能でも、あなたは万能じゃないって事です。
報われぬ恋に堕ちてしまった旦那が地獄に堕ちた所で、
誰も気にも留めないというのに、
アナタは一人大物気取り。
社交パーティで、自意識過剰故に、
意中の娘に声をかけられないガキみたい。
周りを御覧なさいな。
ある程度までは善でいられるんです。
だから、ある程度までは悪でも良いじゃないですか。
傷つかないように世渡りする程度には・・。
それが嫌なら、いっその事、
徹底的にもっと修道士らしくしなさいよ。
まぁ、それには厳しい修行が必要でしょうよ?

旦那がもし、男になるって言うのならば、
協力しようと言うわけですよ。
もちろん、こっちにも事情があるのですから、
そんな事は気にする必要はないんです。
愛しい彼と一緒にね。
下世話な言い方だけどね、
牢獄にも花がありゃあ、
結局の所、楽園とそう変わらないんじゃないかしら?
もちろん恋をする二人にはね。

考えてもごらんなさい。
このまま旦那が一人で罪を持ち続け、地獄に堕ち、
あの青年だけが楽園へ行く。
いや、あの子は十中八九行くでしょうねぇ・・
そうなったら、目も当てられないわねぇ。

**グローデンフェルト**
黙れ!!

<グローデンフェルト神父、大声を出すと、
周囲には誰もいなくなっている>

**グローデンフェルト**
なんという事だ!!
消えた!!

あの怪物共も、少女も、
やはり私の妄想だったのだ。
いや、奴らはまたきっと現れるだろう。
逃れられない私の罪よ!!

純粋なティオへの嫉妬・・想い・・。
まさに朽ちた虫や悪霊が
取り憑くにふさわしい罪ではないか・・・。


<再び、闇の中で、悪魔達が語る>


**悪魔アムドゥスキアス将軍**
彼の予想通り、悪霊達はその後も現れ、
昼夜、彼を地獄に誘惑するのです。
青年を、海ウサギの毒で殺し、
2人で地獄に落ちれば、
棺桶の底で結ばれるという色仕掛けですな。
なかなか、周りくどいですが、
いやぁ、あながち悪くないかもしれない。

<礼拝堂で苦悩するグローデンフェルト神父>

**グローデンフェルト**
おお、主よ!!
全てから祝福され、
この愛が清らかなものと認めてもらえるのなら!!
どんなにいつも夢見たことか!!
いつだって想い焦がれていたのだ!!
輝かしい日の光のもと、教会の鐘は鳴り、
主の家の中で私達は式をあげる。
そして、私のこの想いが、
いかに美しく誇らしいものだったかを、
おお、誰もが知ってくれるだろう!!

だが、ああ、私の想いは
地獄に落ちねばならないのか!?
汚らわしく、恥にまみれた罪人共が我々の友人達なのか!?
どんなに主に焦がれても、罪は罪。
消え去る事は無いのか!?

<悪魔ビビコット子爵が一人で歌う>

**悪魔ビビコット子爵**(独白)
まぁ、奇抜に聞こえる事かも知れないが、
誰もが、悩む事なのさ。
真の魂に祝福を!!
なぜ、神はわかってくれないのか!?とね。

<悪魔ビビコット、滑稽な仕草で>
ああ、お救い下さい!!
ああ、お救い下さい!!

誰もが、悩む事なのさ。
真の魂に祝福を!!
なぜ、神はわかってくれないのか?

**悪魔ビビコット子爵**(独白)
そりゃね、
ほんのわずかな、きっかけなのさ。
地獄に落ちる事など。
誰もが楽園に焦がれ、主のサインをねだってますが、
ああ、ほんの少しのきっかけがあれば、
誰だって私は友達にしてやろう。

私達は心が広いんだ。
そして私の主も。
お前達の主人などよりも、ずっとね。

さぁ、さぁ!!
真の魂に祝福を!!

さぁ、さぁ!!
真の魂に祝福を!!


■■■ 幕 間 劇 ■■■

**道化**
ディオス、ディオス、ディオス・・・・

これが全てなのだ!!
見たまえ!! これが全てそうなのだ!!

これぞ、と思ったのだろう?
その場所に行けば、
そこに全てがあると思ったのだ。

若い頃、揺らめく愚鈍な時間の中で失ったものが、
ここで再び手に入ると?

お前に決して微笑む事のなかった若い娘が、
お前が決して手に入れる事ができなかった名誉が、
受け取る事のなかった金が、
ここにあると踏んだのだ。お前は。

共産主義を語る善人も、
古い銭を数えるのが好きな労働者も、
あるいは全てを憎んでいる娘、
そして、酒と暴力に溺れるかの大男すら、
結局の所、ここにやって来ざるをえなかったのだ。

そして、騙された。

なぜ、お前達は、
あの日失ったものが黄金だと思ったのだ?
何度も何度も何度も訂正しても、
お前達は気づかなかった。

いや、気づかないふりをしたのだ。
生きていけぬから。

あっちへ逃げてもホーイ!!
こっちへ逃げてもホーイ!!

ほうら、結局は清算の時が来たのだ。

お嬢さん、全くもって申し訳ないのだが、
気取り屋が、善人が、罪人が、そして貴女が、
黄金だと思っていたものは、大便だったのだ。
これが人生でなくて何だというのか?
一体、どんなものが
人生だと思っていたのだ?

うず高く積み上げられた大便を見よ!!

信仰の祈りを知らぬ
哀れでおぞましい蠅の子らが蠢き、
冷酷で心の無い埋葬虫や毒虫共が宴会を繰り広げる。

それらは、悪霊の怒りの如き悪臭を周囲に撒き散らし、
メルドの十二使徒を呼び寄せるのだ。

ああ、だが、見て見ぬふりをするな!!
密告者、卑怯者、臆病者!!
冒険者よ、王よ、墓掘り人夫よ!!

どんなに美しいリラの花畑が
この世に存在しようと、
恋人達の未来が希望に輝くものであろうと、
力強い勝利の女神に微笑まれた兵であろうと、
過信するな!!
希望は魂の罠なのだ!!

力強い若者達よ。
富と名声を得た英雄よ。
いつかその若さが老い、
鍛え抜かれた剣が折れる時もあるのだ。

幸福も、美も、報酬も、確かに手に入れるが、
期待は報われないのだ!!

どんなに美しい雌鶏も、糞をしなければ、
生きてはいけぬ。

道化師、アル中、金貸し、黒檀業者、諧謔屋・・・。
負け犬のように生まれた者達は・・・・

そう、負け犬のように生まれた者達は、
それを知っている。

だから、いつだって彼らは
陽気にこう言うのだ。

うず高く積み上げられた大便を見よ!!
これが人生でなくて何だというのか?


【続きはこちら】




【1000視聴突破ありがとうございます♪】
「墓の魚」のラテン詩と、
メメントモリ曲の融合した
配信動画
「死んだ珪藻とマキシロポーダのミサ」
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