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学問という防御網を敷く〜自己反省性の重要性

前回は本当の被害者をめぐる闘争や加害者を必要以上に叩くゲームによってエネルギーが浪費され、長期的なシステム変革にエネルギーが費やされていないのではないか、ということを述べました。

今回はそれに対する処方箋を考えてみたいと思います。

つまり、自分こそが被害者であるという「被害者の代弁」や加害者を探して必要以上に叩く「犯人探し」ではなく、集団無責任体制の中で顔の見えない加害者が大量の被害者を生産するシステムの改善にインセンティブが働くようにするにはどうすればいいのか?という話です。

結論から言うと、学問・アカデミアの力が必要なのではないか?ということです。

学問の「自己反省性」

最近読んで面白かった本に東畑開人さんの「野の医者は笑う」があります。

沖縄におけるセラピー文化(野の医者)とご自身の臨床心理学が根底で治療という「パフォーマンス」として機能している点で一致を見ており、学問として真面目に勉強してきたつもりの臨床心理学が沖縄の怪しいセラピーと同じなのか?と悩む部分があるのですが、最終的に学問と怪しいセラピーの違いに言及しています。

それは「信じるか、信じないかの二択で考えるか否かである」とされています。野の医者は物語を信じるか、信じないかの二択でしかありません。信じるのであればスクールに通うし、信じなければ立ち去れば良いというシンプルな話です。なぜなら自分が物語によって癒されるのかということしか問題ではないので、癒されない物語であればそこから立ち去って別の物語を探せばいいだけです。

しかし、学問はその物語を信じられないのであればそこで立ち止まってもう一度考えたり、物語を修正したりします。自分が信じている学問に反省的な問いを立てたり、自分が信じていない学問とはいったい何なのか?、信じれない自分とは何なのか?ということを立ち止まって考えることができます。つまり、学問とは信じる/信じないの二択ではなくて、学問の可能性や限界、そしてそれに取り組む自分自身について、時に反省的に、時に時間をかけながら文字通り探究していくものだと思うのです。

なぜこの本について言及したかというと、自分を安易に被害者に設定したり、安易に加害者を叩いたりするブレーキとして学問が使えるのではないかと思うからです。

使えるといっても日本国民全員が学校教育の中で自己反省性に気づくことは不可能なので地道な啓蒙活動という意味でしかないですし、そんなことで社会が変わるわけもないですが少なくとも自分は被害者の椅子取りゲームや加害者叩きに巻き込まれることなくシステムの改善に時間やエネルギーを使えるのではないかと思うのです。

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(おまけ)

自分語りになってしまいますが、自分は大学の時に「自己反省性」を学生運動から学びました。研究していたのは1968年の東大全共闘と2016年のSEALDsです。卒論の中では東大全共闘を大学外(社会)の共感を得られずに萎んでいったのに対して、SEALDsは音楽やプラカードなどを工夫することで上の世代にも支持を広げていった結果、共感を生むことを全共闘から学んでいるのではないか、という内容で書きましたが今となっては半分正解で半分間違っていたと思います。

たしかにSEALDsは一時的にメディア露出を獲得し、社会人なども積極的にコミットしている運動に見えましたが、それは全共闘世代の挫折を知っている世代が下の世代にも学生運動が出てきたことに自分を重ねて盛り上がっていただけだったと思います。さらに、そういう上の世代に吸収されてしまったことで今度は学生からの共感を失い萎んでいった結果になったと総括せざるを得ないです。

多くの学生運動が一時的に盛り上がっては消えていくのを見て、学生運動が必然的に失敗する構造を持っていると考えています。それは参加している学生の多くが一時的にデモ活動で政権や資本主義を批判しながら、卒業後に大手企業に勤めたり、公務員として働く未来がなぜか想像できてしまうことにあると思います。

自分が批判しているはずのものに将来取り込まれて、結局同じ過ちを再生産するだけに見える学生に足りないのは「自己反省性」ではないでしょうか。

自分が批判しているものに将来自分がなってしまうかもしれない。そういう危機感があればそれ相応の態度や言葉が出てくるはずですがそういうものは全く聞こえていこない。批判しているはずの自分が批判されるポジションに回るかもしれないことに無自覚なまま運動をしていてもやはりそれは一時的な快楽主義者にしか見えないのではないでしょうか。

運動をやるというのはそういう意味で、運動しているときに注目されたとしても将来に渡って運動で主張していたこととの整合性が付きまとってしまう、文字通り人生をかける覚悟がないのに安易に乗っかるべきではないと思います。

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