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砂漠の旅日記2 世界一不思議なルート砂漠

今日は世界一熱くて、世界一不思議な知る人ぞ知る秘境の砂漠、ルート砂漠についての話。どこにあるか知ってますか?

ラクダに引かれた隊商(キャラバン)が行ったり来たり、はたまた盗賊アラジンがキャラバンを襲ったり、開けゴマの呪文で盗賊たちがお宝を隠した洞窟の岩扉が荘厳に開いたり、あるいは、サン・テグジュベリが飛行機で不時着した砂漠で星の王子様に出会ったり… 砂漠をめぐるおとぎ話には何故だかいつも、エキゾチックで得体の知れない不思議なロマンがある。そういえば子供の頃、アニメでシンドバッドやカウボーイが迷い込んでしまった砂漠の風景を観るたびに、もし自分が灼熱の砂漠で道に迷ってしまった時には、ナイフでサボテンを切ってみたら、水が吹き出てきて生き延びられるのだろうか?とか、盗賊たちに襲われる前に、開けゴマの呪文で洞窟のどこかに隠れればいいのか?とか、砂漠で蜃気楼の大きな町が出てきても絶対に騙されないようにしよう!とか、アニメだということも忘れて、目の前に広がる荒涼とした不思議な砂漠で生き延びるための方法を子供心にもかなり真剣に考えてしまったりしたものだ。

それに、おとぎ話じゃないほんものの砂漠について考えてみても、たとえば水一滴もないはずのサハラ砂漠に潜んでいるサソリだとか、砂漠の中継地点にいきなり現れるオアシスの泉だとか、鳥取砂丘以外にはほんものの砂漠を見たことがない日本人にとっても、砂漠というのはやっぱり不思議な謎に満ちている。都会の忙しない毎日に疲れてしまった時とか、誰もいない無限に広い砂漠に行って思い切り裸足で走ってみたい、とか、アラジンのようなターバンを巻いてラクダに揺られて何日も旅してみたい、とか、オアシスの園で素焼きの壺に汲んだ冷たい水で乾いた喉を潤してみたい、とか、きっと誰もが大人になっても一度くらいは不思議な砂漠の旅を夢見たことがあるんじゃないだろうか?

少し前にユネスコの世界遺産に登録されたイラン(ペルシア)の最大の砂漠ルート砂漠は、おとぎ話の砂漠とも、アニメの砂漠とも、北アフリカにある有名なサハラ砂漠とも、かなり様相が違っているのだけれど、実は世界で一番熱くて一番不思議な砂漠として知られている。

このルート砂漠は、イラン南部のケルマーン州とバルチスターン州とスィースターン州、そして東部の南ホラーサーン州にまたがり、世界遺産の巨大な古代都市バムも近くにある。いわゆる砂漠(キャビール)とそれを取り巻く乾燥した荒れ地(ビヤーバーン)から成るこの広大な砂漠地帯はイランの国土全体の10パーセントも占めるといわれ、その内奥にはまだ誰も足を踏み入れたことのない前人未踏の地が広がる神秘の砂漠だ。

ルート砂漠の航空写真。下に見える海はオマーン湾とペルシア湾。

そんなルート砂漠の魅力は一言で砂漠と片づ3けてしまっては語りきれない数々の不思議な自然の神秘に満ちていて、最近ユネスコの世界遺産に登録されたこともあって、世界各地、特にヨーロッパからアドヴェンチャーツアーにやってくる旅行客が跡を絶たないそうだ。

その不思議な魅力はたとえば…

摂氏71℃を記録した世界で最も気温の高い地点では、フライパンを持参すればその場で卵焼きが焼けるそう。

480メートルにものぼる世界で最も標高の高い砂丘たち。砂丘といっても、これは砂嵐ですぐさま形を変えるような砂丘ではなくて、まるで岩のようにしっかりと固まった砂丘が何万年という歳月を経て砂嵐に浸食されて、不思議なかたちの巨大なオブジェに変容して、砂漠の至るところに散らばっている。地元の人々は砂漠に迷い込んでしまった時のために、このオブジェたちに、象とか、ピラミッドとか、色々な名前を付けて、方角を見極めるのに用いているそうなのだけれど、初めて見ると、きっと火星にでも迷い込んだような錯覚に陥ってしまう場所もある。

恐竜大の大蛇がうねったような砂丘の連なり。右側の砂丘の下に小さく見える自動車から、砂丘の大きさが分かるはず。

乾いた砂地に根も下ろさずに、昼夜の気温差で生じる空気中の湿度だけを水分として吸収して緑なす灌木たち。

大砂漠の内奥にあって「死の世界」と呼ばれる熾烈な灼熱地帯にさえ、本当は乾いた砂のなかに多くの小さな生き物たちがうごめいていること。もちろん彼らはこの灼熱地帯に適応して生きているから、持ち帰ってクーラーの効いた部屋に置いたりしたら、すぐに死んでしまう。

大砂漠の内奥にそれは深く深く、そして長く長い、まるで蛇の口のようなかたちで先が二つに分かれた大渓谷が潜んでいること... 

そして少し前に見つかったばかりの大砂漠の中央に流れる塩水の大河は目を疑うような絶景だ。

もっとも、ルート砂漠の北部に巨大な塩湖が横たわっていることを考えれば、きっとひとしずくづつ、地中深くにまで達した塩湖が大砂漠の中央で再び地上に顔を出し、流々とした大河となって灼熱の砂地に流れ込むのは、一見不思議なようで実は自然の秩序に則した大地の神秘なのかもしれない。

以前、テレビのチャンネルを何気なく回していて、ルート砂漠のドキュメンタリー番組を観たことがあるのだけれど、偶然に目にとまったシーンは、巨大な砂の壁を前に果てしなく平らに広がる砂地を歩いていた青年の足元に、いきなり砂の壁の向こうから大量の水がじわじわと流れ込んできて、乾いていた砂漠があっという間に泥の平原に変わってしまうという映像で、砂漠の常識では考えられない不思議なシーンにただただ驚いて釘付けになってしまったことがあった…


ルート砂漠への旅は極めて専門性の高いアドヴェンチャーの部類に入り、この地に適した特別車や様々な装備や熟練したガイドたち総出でバックアップしてようやく出発が可能になる過酷な旅だそうなのだけれど、それをものともせずにアドベンチャーツアーにやって来る旅行者が後を絶たないというから、摩訶不思議なルート砂漠の魅力はきっと計り知れないのだろう。砂漠初心者の私にとっては、神秘に満ちて危険なルート砂漠への旅はまだちょっと壁が高いような気がするのだけれど、世界一不思議な砂漠として知られているこの砂漠は、どうやらおとぎ話やアニメの砂漠よりももっと摩訶不思議なありとあらゆる神秘に出会える場所みたいだ。

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