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プラハ奇談2016
Prologue
「ここには私1人で住んでいるの。
奇遇にも今夜は私とあなたの2人きり。
お皿の上で出会うことはないと思うから、
近くに来てちょっとお話しましょう?」
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#1
「失礼。お願いがあるのですが聞いて頂けないでしょうか?」
何でしょう?
「靴を履くのを忘れてしまって、これからデートだからおめかししたのに……」
困りましたね。
「えぇ、でも彼女は靴が無い方が喜ぶでしょう」
何故?
「彼女は花瓶なんです。足が無ければもっと喜ぶ」
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#2
タイムカプセルみたいですね。
「"みたい"じゃない。実際そうなのさ」
どういうことですか?
「ここにあるフイルムの全てが誰かの記憶の遺産なのさ、皆忘れて取りに来ないだけでな」
何故誰も取りに来ないんですか?
「荷物になるからだろ?でも、お前は違うみたいだな」
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#3
何をしているんですか?
「良い天気じゃないか」
そうですが……
「風も心地良い」
えぇ……
「あまりにも心地が良いので、鼻歌なんぞ歌いたくなる」
まぁ、そうですね……
「気をつけろ、そんな風にのんびり過ごしていたからある日突然石になるんだ。まぁ、特に困らないがな」
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#4
「見世物じゃないわよ、用が無いなら行って」
あまりにも美しいので……
「身勝手なヤツね。美しいですって?労力と時間を考えて欲しいわ」
神は万能なのでは?
「あなたの中ではそうなんでしょうね。お陰で仕事は増えるばかりよ。そっちにツケがいくのも知らないで、いい気味だわ」
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#5
「失礼、頭が花束の男を見ませんでした?」
……いいえ
「そう、困ったわ。私が壊れてしまって、中に住んでた魚が右往左往してるというのに。あの向日葵のせいだわ!絶対に許すもんですか!」
あなたは花瓶?
「そうよ。あぁ、あの人足が速いから今すぐにでも助けて欲しいのに!」
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#6
「こっちに来い。そのフィルムを映写するぞ」
……ケースの名前は私のではありませんが。
「何言ってやがる。お前のさ」
……ホラ、映像も全然違う!
「お前さんは、今のお前さんが全てだっていうのかい?変な奴だ、全ては連続し、隣接する物語の連続さ。関係無くても関係あるのさ」
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#7
「誰だお前は?誰も追ってきてないよな?」
えぇ、まあ……
「あぁ、時間が無い。花束の男が来たら最悪だ。おい、キミ!助けてくれ」
何故花瓶を壊したの?
「収まってばかりじゃ息がつまるが、今思えばバカだった。花束に捕まる方がもっと悪い」
……多分、彼は来ないよ
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#8
教会の鐘が鳴る。
ボロを纏ったかつての聖職者が兵士に引きずられながら出てくる。
怒り喚く民衆が彼に向かって石を投げる。
地面にのたうつ蛇のように、血が顔面を覆う。
首から下げた十字架は既に欠け、彼は神が永久に不在であることを悟って天を仰ぐ。
一羽の鳥が旋回しながらこちらを見つめる。
かつての牢獄を見て、ここが私の寝床だと気付いたのだ。
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#9
フィルムに囲まれてあの老人は語る。
「バイオリン弾きの恋はいつでも残酷だ。
陰に追いやられ、望んでもいない成就した他人の恋を永遠に祝い続けなければならない。彼のカルマの中にある何が彼をそうさせたのか?というのは無粋な疑問だ。
だから彼はせめてもの抵抗にこうした。
その旋律がいつまでも悲しい思い出として残るように呪いをかけたのだ」
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#10
もうこりごりだ!二度と来るものか!
「出来るならばそうするがいいさ」
何故、彼らは話しかけてくるんですか?
「ワシが知るわけない、お前さんなら知ってるさ」
意味が分からない。
「分かるとも。知りたいならば何度でも来ればいいし、知りたくないなら来なくていい」
どうしてこんな気持ちになるのでしょう?
「さぁな。だが、ほら聞いてみろ。花火が上がる音だ。教会の鐘も鳴っている。全ては何かを祝福するために存在している。お前の中の何かが祝福されたと信じた方が、きっと幸せだ。またいつでも来なさい、この街はいつでもお前さんみたいな迷子を呼んでいる」
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Epilogue
地図のどのあたりにあるのかも分からないような、小さなこの国に行こうと最初に思ったきっかけは実に些細なことだった。
今となってはその目的も忘れ、ただこの街が与える膨大な数の幻想に翻弄されるばかり。
1年を経て、私は「次にどこに行こうか」と考える間もなく、2度目の訪問のための切符を手にしていた。
すべてはこの街が見せる幻影の理由を探すために。
「神よ、どうかお導きを」
と口にしようとした瞬間に、私の口は堅く閉ざされて開かなくなってしまった。
あぁ、この旅もまた平和に過ぎることはないのでしょうね。
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2016年にプラハに行ったときの思い出。
実在と虚構を織り交ぜた駄弁り。幻覚。
何にせよ、プラハが好きで、稲垣足穂が好きです。
2019年6月29日公開
<こちらはpixivより引っ越ししてきた作品です>
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