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映画『キャバレー』 ベルリンのアメリカ人(ネタバレ感想文 )

監督:ボブ・フォッシー/1972年 米

恥ずかしながら今回初鑑賞。「午前十時の映画祭」に感謝。

話というか設定はさあ、『巴里のアメリカ人』(1951年)ならぬ「ベルリンのアメリカ人」ということだと思うの。
ちなみに『巴里のアメリカ人』の監督は、ライザ・ミネリの父親、ビンセント・ミネリね。

いわゆる突然歌って踊り出す「古き良き時代」のミュージカルとは異なり、歌と踊りはキャバレーのステージ上で繰り広げられます。そして、そこで歌われる歌は、ドラマと重なるという趣向です。
この歌と踊りがいいんだ。この猥雑な感じが最高に素晴らしい。
こんなショー大好き(<かつてギラギラガールズでよく遊んでいた奴)。
真面目な話、映画を観終えた直後の感想は「素晴らしいショーを見せてもらった」。

私は、ライザ・ミネリ演じるサリー・ボウルズに、『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーが重なって見えたんです。
映画『ティファニーで朝食を』(61年)はオードリー・ヘプバーン主演のロマンチックコメディに仕立てられていますが、私はこのライザ・ミネリの方がイメージに合っていた気がします。

トルーマン・カポーティが小説『ティファニーで朝食を』を書いたのが1958年。
『キャバレー』の元の舞台『私はカメラ』は1951年(その原作小説『さらばベルリン』は第二次世界大戦中の1939年だそうですが)。
つまり両方とも1950年代に描かれた「水商売の女性」というわけです。

バリバリ第二次大戦中に書かれた原作小説は『さらばベルリン』というタイトル通り、ナチス統治下の影響が色濃いのでしょう。読んでないから知らんけど。
(ちなみに原作者のクリストファー・イシャーウッドというイギリス人はゲイだったそうです)

ナチス将校って酒場でよく遊んでて、歌手とか踊り子とか娼婦とかがよく絡む印象があります。ビリー・ワイルダーの『情婦』(57年)とかリリアーナ・カヴァーニ『愛の嵐』(74年)とかタランティーノ『イングロリアス・バスターズ』(2009年)とか。

そうした一設定にすぎなかった「水商売の女性」が、1950年代に入ってブロードウェイ化の際に「女性の物語」として中心に据えられたのではないかと想像しています。
題名からもそれが窺えます。
前者は「私はカメラ。シャッターを開け、受け身で、何も考えず撮るだけ」という原作小説の台詞から、後者は「いつかティファニーで朝食を食べられるくらいの身分になりたい」という野心と無知を含んだ台詞から。
つまり、いずれも「主人公の女性の心情」が題名に用いられたわけです。

偶然かもしれませんが、1950年代は「したたかに生きようとする女性」が描かれ始めた時代なのかもしれません。
サリー・ボウルズとホリー・ゴライトリーはその象徴。
正確には「したたかに生きようとする」けど、そうもいかない。
「陽」の表の顔と「陰」の背景を背負った女性の物語。

この前観た『テス』(79年)で「1850年頃から意志を持った女性が描かれ始めた」といったことを書きましたが、それから100年を経て、やっと「顔で笑って心で泣く」女性の悲哀が描かれるようになった気がします。

あ!撮影は『テス』と同じジェフリー・アンスワースだ。偶然。
すごいな。『テス』はイギリス映画に見えたけど、『キャバレー』はドイツ映画に見えたよ。

以上、映画『キャバレー』の感想に全然なっていませんでした。

(2023.01.29 TOHOシネマズ日本橋にて鑑賞 ★★★★☆)

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