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映画『哀れなるものたち』 18禁哲学映画(ネタバレ感想文 )

監督:ヨルゴス・ランティモス/2023年 英(日本公開2024年1月26日)

ド「フィクション」で世の中の「本質」を描く。私が理想とするタイプの映画です。
実話を元にした話って嫌いなんですよね、逆に綺麗ごと過ぎて。
ドフィクションで真実を射抜くのがいいんだよ!

ただ、このギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの監督作品は、これまで『ロブスター』(2015年)と『女王陛下のお気に入り』(18年)を観ていますが、今回の映画が一番分かりやすい。
正直、分かりやすすぎて物足りない。
なんか、世界の本質を突いた点では『逆転のトライアングル』(22年)に近い気もしますし。

まあ、最初は石井輝男『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)かと思いましたけどね。
「成長しない男に対して女性は成長する物語」という意味では、石井岳龍『蜜のあわれ』(2016年)にも似ているとも思いました。
だって、二階堂ふみが「金魚」なんだぜ。なんだそれ?
あ、変な映画の監督、どっちも「石井」だ。

そういうわけで、鑑賞直後は「分かりやすすぎて物足りない」と感じたのですが、この感想文を書きながら思ったんです。
彼女は、本の「知識」と娼館での「肉体」で学んで成長していくんですよね。言い換えれば「脳」と「身体」。
設定に舞い戻るんですよ。めちゃめちゃレベル高い構成。

その糧となる本を差し出すのが「マリア・ブラウン」ってのもグッとくるんですが、それは置いておきましょう。

閉じ込められた安全空間を飛び出して世界を知る。
変な映画に思われがちですが、非常に前向きで真っ当な話です。
むしろ我々が生きている現実の方が、誰かに閉じ込められてもいないのに、自ら世界を閉じてしまっている変な世界かもしれません。
だからド「フィクション」がいいんだよ!
逆説的に世の中の「本質」を射抜くことができるのさ。

もっと言うと、原作者のアラスター・グレイが目指したのはメアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』(知ってる?フランケンシュタインの原作者って女性なんだぜ)のパロディというかオマージュというか、パスティーシュというそうなんですけども、それがベースにあるわけです。
ところが『フランケンシュタイン』が「神の領域に踏み込んだ罪」「科学への警鐘」というテーマだったのに対し、この話は科学でも神でもなく「人が人を抑制することの罪」を描いているように思います。

ここまで書いてきてさらに思ったんですが、この映画の胎児、というか「脳」ですが、男か女か明確にしてない気がするんですけど?見落としたのかな?
私は「男脳」じゃないかと思うんです。
そう考えると、性同一障害なのかもしれません。
ま、明示していないから、そこがテーマではないし、むしろ「男でも女でもない存在」という意図かもしれませんけどね。

映画は18禁で、それはもちろん性的描写のせいなんですが、私は別な意味で18禁のような気がするんです。
この映画(というか話)は哲学です。でも哲学は世界を変えられない。
そんな世の中の「本質」あるいは「現実」を、子供はまだ知っちゃいけない。子供が知るには、ちょっと危ない思想。
そういう意味で18禁映画。

余談
ウィレム・デフォーの意思は誰かが継ぐんだな。
サム・ライミ『スパイダーマン』と一緒。

(2024.01.27 吉祥寺オデヲンにて鑑賞 ★★★★☆)

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