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映画『逆転のトライアングル』 世界の縮図を辛辣に描いた恐怖映画(ネタバレ感想文 )

監督:リューベン・オストルンド/2022年 スウェーデン(日本公開2023年2月23日)

ことさらコメディの体で売られていますが、私は違うと思います。
ブラック・ジョークではありますが、実態は世界の縮図を辛辣に描いた恐怖映画。

原題は「Triangle of Sadness」
「悲しみのトライアングル」とでも訳すんですかね?「逆転」なんて一切言ってない。
私は「3つの悲しい話」じゃないかと思うんです。
「世界の悲劇の連鎖」と言ってもいい。

「3つの悲しい話」と言いましたが、映画は三部構成です。
この3つの章が「トライアングル」なのだというのが私の解釈です。

第一部は「ミクロ経済」、第二部は「マクロ経済」が描かれます。
別の見方をすれば、第一部は「個人」、第二部は「世界」、それぞれの「政治問題」とも考えられます。

第二部の舞台となる「船」は「世界」です。
キム・ギドクの遺作『人間の時間』(2018年)を彷彿とさせます。
人々の「欲望」渦巻く「世界」が「ゲロまみれのクソだ」とたっぷり描写して、「世界」は崩壊します。つまり「革命」ですね。

第三部は革命後の世界。
「もしもアジア人女性が世界のリーダーになったら」というパラダイムシフトのお話。
「女性」「アジア」という世界的にも歴史的にも「虐げられてきた側」が、力と技術でトップに君臨する。
本来なら、革命後の世界は「理想郷」であるはずです。
ところが、権力を握った「かつて虐げられてきた側」の人間は、武器を手にしたりセクハラをしたり、これまで「虐げてきた側」つまり男性や欧米人がやってきたことを繰り返すんですね。
なんというブラック・ジョーク。

ところが、本当は「逆転」なんかしてないんです。
立場が逆転しても、「かつての勝ち組側」の人間は、「かつての負け組」を見下している。
これがこの映画最大のブラックで恐怖ポイント。
金品で釣り、挙句の果ては「助かったら雇ってあげる」などと上から目線で言い出すのです。
そして、「虐げられてきた側」は、逆転した現在の地位に固執して武器を手にするのです。

この映画で感心するのは、登場人物の感情の流れが実に自然なんですよね。
下手なドキュメンタリーよりも感情の流れが自然。いちいちもって腑に落ちる。
いやまあ、船長の考えてることは解らんけどね。

映画を最後まで観ると、冒頭の「H&Mとバレンシアガ」のクダリが、ただのお笑いシーンではなく、この映画の重要なテーマを全て語っていたことに気付かされるのです。
なるほど。ある意味、そこが「逆転」なのか。

このリューベン・オストルンドというスウェーデン人監督は、以前観た『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年)がゾワゾワする不思議な触感の映画だったので興味を持っていました。
今回の作品も、吐きそうなくらい不思議な食感でした。
今のところ、今年の「俺の最優秀脚本賞」映画。
ただ、面白いかと問われるとどうでしょうかね?
考えさせられる映画ではありましたけど。
オススメはしません。

(2023.03.05 渋谷Bunkamuraル・シネマにて鑑賞 ★★★☆☆)

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