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映画『マリア・ブラウンの結婚』 戦後生まれが描く戦後10年史(ネタバレ感想文 )

監督:ライナー・ベルナー・ファスビンダー/1978年 西ドイツ

37歳で早世したライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の、そして主演女優ハンナ・シグラの代表作で、長年私の課題だった作品。やっと鑑賞。

女の一代記を軸にした愛の映画で(メロドラマと言ってもいい)、したたかな『ひまわり』(1970年)とも言えます。しかしその裏で「ドイツ戦後10年史」を描いた映画だと思います。
とは言え、ファスビンダーは1945年5月31日生まれ。ヒトラーが死んだのが同年4月30日。つまりファスビンダーは、ドイツ終戦とほぼ同時(約1ヶ月後)に生まれた「戦後生まれ」ということになります。

この映画、その戦争終盤(1943年の設定だそうです)から始まります。
もうね、この冒頭ワンシーンでハート鷲掴みにされたんだ。

映画は戦時中の空爆で始まり爆発で終わります。
その10年の間に世の中は変化します。
ジャガイモとわずかなパンだけの配給から豪華ディナーへ。
投げ捨てたタバコを大勢が拾う時代から、いつでもどこでもタバコを吸える時代へ(それが結末に至る)。
ラジオから流れる情報は、行方不明者の人探しからサッカーW杯でドイツ(西ドイツ)初優勝(1954年)へ変化します(なので厳密には12年ですね)。
絹の靴下で男を魅了した彼女は、おそらくナイロンのストッキングで大成功したのでしょう。
街は復興しているのでしょうか、絶えず工事音が聞こえます。
『苦い涙』(72年)でも感じたのですが、音の使い方が独特ですね)

その一方でこの映画は、時代が変化しても変わらないものがあると言っているような気がします。
変わらないもの、それが「愛」です。
いや、『苦い涙』と本作しか観てませんが、ファスビンダーが描くのは「報われない愛」のような気がします。

実際この映画は、一途なのかしたたかなのか、感情の捉え所が良くわからないドイツ映画らしい側面もありますが、マリア・ブラウンの「報われない愛」の物語なのです。
愛を手に入れようとする瞬間、その指の先から逃げていく物語なのです。

(2023.08.05 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて鑑賞 ★★★★☆)

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