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映画『CURE』 Jホラーの原点にして黒沢清の原点(ネタバレ感想文 )

監督:黒沢清/1997年 日

2023年に再鑑賞して評価UP。
公開時以来の再鑑賞だったのですが、その後の黒沢清作品を観る度に
(なんだかんだ言いながらほぼ全て観ている)
「『CURE』が一番面白かったんじゃね?」と思っていたので、映画館で再鑑賞できて良かったです。
やっぱり一番面白かった。たぶん(笑)

『リング』(1998年)以降、「Jホラー」と呼ばれる作品が一世を風靡しますが、本作はその前年の作品。『リング』は大衆の口に合うファミレス映画なんですよね、あれはあれで怖かったけど。
一方本作は、本場の味と言うか、通好みの味付け。
公開時は何だか分からない面もあったのですが、今観ると黒沢清作品で一番「観客に親切」かもしれません。

私は黒沢清を「この世界は不安定であることを描き続ける作家」だと言い続けています。本作がその原点。
私は「黒沢清の黄泉よみの国」と呼称しているんですが、(主に映画終盤に)煙に包まれて不安定なコッチの世界はアッチの世界と繋がってしまう。
コッチの世界とアッチの世界が繋がるのは村上春樹も同じですが、黒沢清がタルコフスキー好きだと知った今、これは『ストーカー』(79年)なんだということが分かります。
この作品は、「不安定な世界」「黄泉の国」「タルコフスキー好き」が如実に現れた「真摯なホラー」、つまり黒沢清の原点だと思うのです。

まるでタルコフスキーのよう

それと黒沢清の特徴として、北野武が言うところの「因数分解」の多用があります。簡単に言えば、「代数」を用いた省略法ですね。
本作だと洗濯機が典型例です。
「洗濯機が空」という描写は一度しかない。
その後何度も出てくる洗濯機は同じ描写が一つもなく、音だけだったりもするのに、観客は「空回し」だと認識する。

この因数は「炎」「水」「X」なども同様です。
そして、その因数をわざと分解して見せるんですね。
多くのミステリーは、この因数を集めて全貌を明かし「謎解き」をする(そしてそれが結論になる)もんですが、この映画は「因数分解」したまま観客に提示して、その先を予感させるんです。

言い換えれば、謎解きによって観客を安心させることは決してない。
(それ故、難解に感じたり雰囲気しか伝わらなかったりするんですが)

だって、「この世界は不安定」であることを描くのが「恐怖に対して真摯である」黒沢清のスタイルですから。

(2023.08.06 目黒シネマにて再鑑賞 ★★★★★)

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