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映画『ストーカー』 (ネタバレ感想文 )科学・芸術・宗教の珍道中

配信で倍速鑑賞しても遅いし眠い(だろう)でお馴染み(?)タルコフスキー。全7作の長編映画のうちの5作目。亡命以前のソ連時代最後の作品。
これも30年ぶりくらいの再鑑賞。

私はこの映画を、最も黒沢清っぽい作品(黒沢清が影響を受けたであろう作品)だと思っています。タルコフスキーを理解するのに黒沢清を媒介にするのもおかしな話なんですけどね。

タルコフスキーに心酔する黒沢清(最近は顔まで似てきた)は、常に「この世界は不安定である」ことを描いていると思うんです。
この『ストーカー』も、電車通過で部屋が揺れたり、バーの蛍光灯がチカチカと切れかかっていたり、足元は常に悪かったり、水が油(のようなもの)で澱んでいたり、とにかく「不安定な世界」が描写されます。

さらに、「コッチの世界がアッチの世界に侵蝕される」話だと思っています。黒沢清の映画はたいがいそう。
電話が繋がったり、黒犬がやってきたり、モノクロだったはずの現実世界で娘がカラーになったり。
そもそも、軌道車を手放してどうやって帰ってきたんだろう?本当に元の世界に戻ってきたのかどうか・・・。

また、亡命前の作品となったことから、タルコフスキーの逃亡願望の映画とも考えられます。そう考えるとゾーンの意味も変わってきそうです。

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そんなこんなで私はこれまで、「ゾーンとはなんぞや?」ということが物語の核心だと思っていました。ゾーンが何の象徴かを理解できれば、タルコフスキーの意図が理解できると思っていたのです。
そのためのキーワードとして「不安定なコッチの世界」「(心象風景としてカラーの)アッチの世界」あるいは「理想郷」「人の心の中」などあれこれ考えていました。

でも今回の再鑑賞でだいぶ見方が変わりました。

科学・芸術・宗教の「珍道中」。

そう考えるとこの映画、いや、全てのタルコフスキー映画が分かりやすくなる気がします。ある程度までは。

ある者は危険視し、ある者は妄想だといい、ある者は救いだという。
そんなゾーン(あるいは「部屋」)とは、一体何だろう?

きっと映画の神様は「マクガフィン」って言うと思う。
ヒッチコックが笑ってるぜ。たかが映画じゃないか。

要するに、ゾーンが何だっていいんですよ。
重要なのは道中繰り広げられる三人の会話。それがタルコフスキーの主張。
そういった意味では、三者三様に自己を取り巻く環境にウンザリしているのが興味深い。

ただ、理解ができる(理解しやすい)のはある程度まで。

奥さんが唐突にカメラに向かって語り始めてから、別の映画のようになってしまう。何あのラストシーン?「足の不自由な娘」って何の象徴なの?

私は『惑星ソラリス』(72年)よりも本作の方が、『2001年宇宙の旅』(68年)に近い気がします。
人はどこからきてどこへ行くのか?
『2001年宇宙の旅』」の科学的アプローチに対して、この映画は精神面からのアプローチだったのかもしれません。

科学・芸術・宗教を擁した人類は、マジでどこへ向かっているんだろう?

(2021.11.03 Morc阿佐ヶ谷にて再鑑賞 ★★★★★)

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監督:アンドレイ・タルコフスキー/1979年 ソ連

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