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インドのひとたちとわたくし。(1)  -女の人たちと社会

 「ジェンダー・ギャップの是正やダイバーシティは日本よりインドのほうが先を行っている」とインド人に言うと、よほど日本に詳しい人でない限り、一様に驚いた顔をする。一般のインド人にとって日本はインドのはるか先を行く憧れの国であるので、自分たちのほうが進んでいるなどとは思ってもみなかったようだ。
 2018年のジェンダー・ギャップ報告書(ワールド・エコノミック・フォーラム)では149か国中、インド108位、日本110位。低位争いで、しかも日本の順位の低さが目に余るところではあるがそれはともかく、インドのほうが上なんである。

 あるとき実業家でもある40代のソニアとこの話になった。日本に比べてインドの会社や銀行、役所のほうが普通に女性のトップや管理職が出てくる印象があると話すと、確かにこの何年かで変わってきたと彼女も言う。
 「だけどね」とソニアらしいひと言があった。「企業トップに女性を据える会社も多いけれど、ほとんどは見栄えのよさだけ。女性トップの多くはお飾りでノー・ブレイン。私みたいに頭も使える女性経営者はまだ少ない」。大柄で、豊かなウェービーヘアをなびかせ、美脚を惜しげもなく見せるミニスカートでいつも颯爽と現れる、誰が見てもゴージャス系美人のソニアが言うとなんだかおもしろいのだが、美人なだけにうわべだけと見られるのが我慢ならないのだと思う。

 そういえばその前後、彼女のビジネスパートナーであるジョシーと3人でお茶をしていたとき、興味があったのでジョシーとソニアの役割分担について聞いてみた。ジョシーはエンジニア出身の経営者、きれいにカラーリングした髪と髭をたくわえ、ジーンズにブーツを履きこなすお洒落な紳士である。いわくジョシーは、思い立ったらすぐ実行したいタイプなのに対して、ソニアはあくまでも慎重派、ジョシーのアイデアに何度もしつこく質問の電話をかけてくる。ソニアは技術者でもないので、当初はそうとう鬱陶しいとジョシーも思ったようだが、今では彼女は情報をよく理解し、吟味したうえで投資するかどうかを的確に判断してくれるありがたい存在だ。互いに異なる得意科目を持っていたほうが、パートナーとして特にビジネスでは上手く行く。それはその通りだと大いに頷く。
 ジョシーもそこまでで話を止めればよかったのに、最後に余計なひと言があった。「それに美人だしね」。ソニアと私が二人して「馬鹿じゃないの」と噛みついたのは言うまでもない。

 Netflix で話題となっているインドのドラマ『デリー・クライム』では、2012年に実際に起こった集団強姦事件をもとに、デリー警察の女性署長と若い女性刑事を中心とした捜査チームが事件解決に向けて粘り強く取り組む姿を真摯に描いている。

 日本でも大ヒットしたインド映画『バーフバリ』もインドの英雄譚ではあるが、目立っていたのは主人公の母親や妻の、精神的にも肉体的にも「強い」ところだったと記憶している。ほかにも、元インド王者のレスリング選手が、競技人口の少なさを危惧して娘二人に強制的にレスリングを教え込み、当初は反発していた娘たちも次第に競技に魅力を感じて、最後はインド代表にまでなる、これも実話を基にした『ダンガル、きっと強くなる』も、女性をエンパワーメントする映画だった。もっとも『ダンガル』の場合、結局、父親の言う通りの人生を選んだ二人が本当に女性の自立にあたるのかという指摘もあったので、例としてはふさわしくないかもしれない。

 が、たとえばエンターテインメントの世界で女性をキーロールに置く、たまたまかもしれないがそのような映画が続けてリリースされると、見ているこちらとしては、こういうところからも確実に、特に次世代に向けたロールモデルという意味でも、社会へのメッセージにはなっているだろうと想像する。

( Kempegowda International Airport, Bangalore, 2018 )



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