ぺんたぶ

エッセイや小説を書いたり、会社で働いたり、妻に恋に落ちたり、小学2年生のむすこのパパだ…

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エッセイや小説を書いたり、会社で働いたり、妻に恋に落ちたり、小学2年生のむすこのパパだったり。 ここでは、140字では書き切れないことを。 既刊:いまどうしてる? 恋してます。/ 作家彼女。/ ハキダメ。他(いずれもKADOKAWA)

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  • むすこの話

    5才になる息子のコトのおはなし

  • 仕事のはなし

    銀行員の話、作家の話 などなど

記事一覧

固定された記事

「運動会がイヤ」と泣いていた息子がリレーのアンカーを走り、1位でゴールテープを切った話

運動会当日の話  秋の休日の話である。  これ以上ないほどに運動会日和な秋晴れの空の下、5才になる息子のコトが、僕と妻の目の前で、運動会のリレーのアンカーとして走…

ぺんたぶ
2年前
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息子が「ママに”可愛いよ”って言ってるのに、ぜんぜん信じてくれない」と悩み、こっそり先生に相談していた話

 うちの妻が抗がん剤での治療を始めて、二か月ほど経った頃――副作用の「脱毛」が、始まってしまった。  もちろん、抗がん剤の副作用のひとつに、「脱毛」があるのはよ…

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ぺんたぶ
2日前
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妻の「がん」と、解決すべき”お金の問題”について

 今日は、妻が「がん」になったときに我が家が直面した”お金の問題”について、話をしたいと思う。  妻が「乳がん」の告知を受けたそのとき、いわゆるステージなどの進…

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ぺんたぶ
2週間前
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妻が“がん”と告知されたとき、夫があれこれ考えること

「病めるときも、健やかなるときも」――  そう誓った日から10年が経った、とある冬の日。妻が突然、「胸にしこりがある気がする」と言い出した。  2人で力を合わせて…

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ぺんたぶ
1か月前
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あの日誓った「病めるときも」が来てしまった話

■妻に”がん”がみつかりまして  もう10年も前の、とある夏の日。大きな教会で、僕と妻は、あの「健やかなるときも、病めるときも」という有名なフレーズで、どんなとき…

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ぺんたぶ
1か月前
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子供の手づくりカードゲームほど恐ろしいものはない、という話

 とある夏の夜の出来事である。  5才のむすこのコトが不意に、「パパ! ママ! きいて! コトはね、すっごいおもしろいゲームしってるんだけど、やる!?」と、目を…

ぺんたぶ
1年前
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いつか息子が大きくなって、僕の手を離れてしまう日が来ることを、少しだけ考えた日の話

 僕は知っている。いつか息子は大きくなり、やがて僕たち親の手を離れて、独り立ちしていくのだと。それこそ、かつての僕がそうだったように。  けれどもしばらくは、ま…

ぺんたぶ
2年前
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息子には好きなだけ絵を描いて欲しいと思う、そんな親心の話

 5才になった息子のコトは、絵を描くのが大好きだ。  特に最近、鉛筆をうまく握れるようになったからか、 「パパー! しろいかみ、くーださいっ!」  と、僕の書斎に…

ぺんたぶ
2年前
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「お友達とは、また会えるよ」という話

 春は別れの季節だと、そう僕は思う。  幼い頃から、親の仕事の都合で、引っ越しや転校による別れを繰り返してきたせいだろう。雪国や都会、海の向こうの離島、暑い土地…

ぺんたぶ
2年前
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大企業とベンチャーのどちらを選ぶべきか? とインターンの学生に問われた話

 ある日、僕が働く銀行のオフィスで、スーツを着た学生たちとすれ違った。彼らは少し緊張した様子で、先導する人事部の行員のあとを歩いていた。  少し前まで、僕もイン…

ぺんたぶ
2年前
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むすこが初めて「おはなし」を作って聞かせてくれた夜の話

 我が家のリビングには、5才になる息子のコトの本棚が置いてある。     トーマスやパウ・パトロールのキャラクターを紹介する絵本や、動物の図鑑に、毎月届くこどもチ…

ぺんたぶ
2年前
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僕が5才の頃にお気に入りだったリュックが、いま5才の息子のお気に入りのリュックになった話

 もう30年近く前の話だ。  僕がまだ小さい頃――それこそ、いまの息子と同じくらいの年頃のとき、いつもデニム生地の小さな青いリュックにおもちゃをいっぱい詰め込ん…

ぺんたぶ
2年前
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いつか大きくなった君に、僕の夢について教えてあげるその日のために

 平日の夜、仕事を終えて「ただいまー」と帰宅すると、リビングから5才になる息子がタタタっと駆けてきて、あーん、と大きく口を開けた。 「パパみて! はがぬけたの!…

ぺんたぶ
2年前
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固定された記事

「運動会がイヤ」と泣いていた息子がリレーのアンカーを走り、1位でゴールテープを切った話

運動会当日の話  秋の休日の話である。  これ以上ないほどに運動会日和な秋晴れの空の下、5才になる息子のコトが、僕と妻の目の前で、運動会のリレーのアンカーとして走り、見事に1位でゴールテープを切った。 「やったーっ!」と、高々とバトンを掲げて跳びはねるコトの姿を見て、僕は思わず泣きそうになった。 「やばい、泣きそう」と言って妻の方を見る。 「え?」と振り返った妻は、すでに滝のような涙を流していた。  …………え?  「な、泣きすぎじゃない……? もっとこう、ポロッとか

息子が「ママに”可愛いよ”って言ってるのに、ぜんぜん信じてくれない」と悩み、こっそり先生に相談していた話

 うちの妻が抗がん剤での治療を始めて、二か月ほど経った頃――副作用の「脱毛」が、始まってしまった。  もちろん、抗がん剤の副作用のひとつに、「脱毛」があるのはよく知られているし、僕も主治医の先生からも話は聞いていた。特に女性は、この脱毛が始まると、大きなショックを受けてしまうことが多いことも。  そしてそれは、うちの妻も、決して例外ではなかった。  髪や眉毛、まつ毛が抜けていく姿を鏡で見るたびに、妻は「わたし、可愛くない」と言うようになってしまった。  いくら僕が「君

妻の「がん」と、解決すべき”お金の問題”について

 今日は、妻が「がん」になったときに我が家が直面した”お金の問題”について、話をしたいと思う。  妻が「乳がん」の告知を受けたそのとき、いわゆるステージなどの進行度や余命の次に気にしたのが、この「お金」の問題だった。  がんの治療には、お金がかかる。そりゃもう、かかる。  たとえばこんな感じ。 「ちなみに、毎週抗がん剤を使って治療する――って言いましたけど、お金って、どのくらいかかるんですか?」  がんの告知で衝撃を受けたばかりの妻が、先生に聞く。  すると、   「そ

妻が“がん”と告知されたとき、夫があれこれ考えること

「病めるときも、健やかなるときも」――  そう誓った日から10年が経った、とある冬の日。妻が突然、「胸にしこりがある気がする」と言い出した。  2人で力を合わせて闘う日々が始まった、そのとき。  夫である僕が考えたあれこれについて、今日は話そうと思う。 ■ はじめに~前回の記事のお礼など  前回の記事 ”あの日誓った「病めるときも」が来てしまった話” は、全文を無料で読めるようにしていたにも関わらず、購入やサポートをいただき、本当にありがとうございました。   今回の

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あの日誓った「病めるときも」が来てしまった話

■妻に”がん”がみつかりまして  もう10年も前の、とある夏の日。大きな教会で、僕と妻は、あの「健やかなるときも、病めるときも」という有名なフレーズで、どんなときも互いに助け合い、愛し合うことを誓った。  あれから10年が経った、ある冬の日のことである。    ――妻の胸の中に、「がん」が見つかった。    そりゃあ長い人生ですから、いつかは来るよねこんな日も。  ということで、この日このとき、この瞬間から、僕らがあの日誓った"病めるときも"のお話が、幕を開けたわけである

子供の手づくりカードゲームほど恐ろしいものはない、という話

 とある夏の夜の出来事である。  5才のむすこのコトが不意に、「パパ! ママ! きいて! コトはね、すっごいおもしろいゲームしってるんだけど、やる!?」と、目をキラキラと輝かせながら聞いてきた。  断られることなど1ミリも想定していないその勢いに負け、僕と妻は「う、うん」と首をたてに振った。  すると、コトはすっくと立ち上がり、自分のおどうぐ箱から白い紙を何枚か、そして色鉛筆に筆ペン、ハサミなんかを取り出してきた。 「じゃあ、コトがじゅんびするから、パパとママはまってて

いつか息子が大きくなって、僕の手を離れてしまう日が来ることを、少しだけ考えた日の話

 僕は知っている。いつか息子は大きくなり、やがて僕たち親の手を離れて、独り立ちしていくのだと。それこそ、かつての僕がそうだったように。  けれどもしばらくは、まだ僕のこの手を支えにして欲しい――と、そう思ってしまうのも、また親心だと思うのだ。  今日は、そんな話をしようと思う。 *** 「パパ! ぜったい、ぜーったい、手をはなしちゃダメだからね!」 「わかってるよ。大丈夫、パパに任せて」  休日、自転車用の道路での話である。  僕は、5才の息子のコトが、補助輪なしの

息子には好きなだけ絵を描いて欲しいと思う、そんな親心の話

 5才になった息子のコトは、絵を描くのが大好きだ。  特に最近、鉛筆をうまく握れるようになったからか、 「パパー! しろいかみ、くーださいっ!」  と、僕の書斎にやって来ては、コピー用紙を何枚か持って行くことが増えたように思う。  リビングの床にぺたりと座り、パウ・パトロールやトーマス、カーズといった、大好きなキャラクターたちのイラストを描くのが、最近のお気に入りである。  そして自分が納得のいくイラストが出来上がる度に、トテトテっといつもの足音を立てながら書斎に駆け込

「お友達とは、また会えるよ」という話

 春は別れの季節だと、そう僕は思う。  幼い頃から、親の仕事の都合で、引っ越しや転校による別れを繰り返してきたせいだろう。雪国や都会、海の向こうの離島、暑い土地など、本当に様々な場所を転々としてきた。  別れのタイミングは、いつも春だった。  幼稚園の頃に、もう名前さえ思い出せない幼なじみと離ればなれになったのもこの季節だった。小学校や中学校の頃に、放課後に一緒に遊んだ友達と別れたのも、高校を卒業して親元を離れたのも、社会人になって初めての転勤も、いつも春の出来事だった。

大企業とベンチャーのどちらを選ぶべきか? とインターンの学生に問われた話

 ある日、僕が働く銀行のオフィスで、スーツを着た学生たちとすれ違った。彼らは少し緊張した様子で、先導する人事部の行員のあとを歩いていた。  少し前まで、僕もインターンの学生たちに銀行の仕事を教えるのを手伝っていたことを思い出す。しかし、少しずつ年次があがり名刺の肩書きが増えるにつれて、学生の前に立つ機会はだんだんと減っていった。やはりインターンの対応は、学生と年が近い若手の役回りということなのだろう。  学生たちの後ろにも、何人か、人事部の行員がついて歩いている。  その

むすこが初めて「おはなし」を作って聞かせてくれた夜の話

 我が家のリビングには、5才になる息子のコトの本棚が置いてある。     トーマスやパウ・パトロールのキャラクターを紹介する絵本や、動物の図鑑に、毎月届くこどもチャレンジの教材など、コトのお気に入りの本たちがぎゅうぎゅうに詰まっている、そんな楽しそうな本棚だ。  息子はリビングで遊んでいるときや、トイレに向かう途中など、ふとした瞬間にこの本棚を眺めては、目をキラキラとさせている。  そしてそんな様子を見て、僕と妻は、「コトくん、本が好きな子に育つといいね」とこっそり笑い合

僕が5才の頃にお気に入りだったリュックが、いま5才の息子のお気に入りのリュックになった話

 もう30年近く前の話だ。  僕がまだ小さい頃――それこそ、いまの息子と同じくらいの年頃のとき、いつもデニム生地の小さな青いリュックにおもちゃをいっぱい詰め込んで、あちこちに出かけていた。    そんな「僕のお気に入りだったリュック」が、時を経て、いまは息子のお気に入りのリュックになっている――今日は、そんな話をしようと思う。  ***  とある休日、5才になったばかりの息子のコトが「こうえん、いこ!」と言うので、妻と3人で、近所の公園に出かけることにした。  妻が、「

いつか大きくなった君に、僕の夢について教えてあげるその日のために

 平日の夜、仕事を終えて「ただいまー」と帰宅すると、リビングから5才になる息子がタタタっと駆けてきて、あーん、と大きく口を開けた。 「パパみて! はがぬけたの!」  たしかに、下の前歯が一本、ない。少し前から「ぐらぐらする」と言ってはいたが、とうとう抜けたのか。 「やったじゃん。楽しみにしてたもんね」 「コト、は、ぬけたー! やったーっ!」  息子は、じぶんのことを「コト」と呼ぶ。  下の名前の「ことば」のうち、2文字をとって、コト。 「これでコト、おとなになる?」