妻の「がん」と、解決すべき”お金の問題”について
今日は、妻が「がん」になったときに我が家が直面した”お金の問題”について、話をしたいと思う。
妻が「乳がん」の告知を受けたそのとき、いわゆるステージなどの進行度や余命の次に気にしたのが、この「お金」の問題だった。
がんの治療には、お金がかかる。そりゃもう、かかる。
たとえばこんな感じ。
「ちなみに、毎週抗がん剤を使って治療する――って言いましたけど、お金って、どのくらいかかるんですか?」
がんの告知で衝撃を受けたばかりの妻が、先生に聞く。
すると、
「そうですね。これは人にもよりますが、乳がんの場合ですと、毎週3万円、月あたり12万円くらい必要になると思っておいてください」と先生が。
「ぼっ!?」と口ばしる妻。
「ぼってなに、ぼって」と僕。
「いや、さっき、『わたしが使う抗がん剤にはビール一杯分のアルコールが入ってる』って聞いたせいか、つい『ぼったくりバー』なんて単語が頭をよぎっちゃって」
「不適切にもほどがある」
とはいえ、月々12万円。
実際に払うとなると、なかなか覚悟がいる金額だ。
もっとも、命の値段と思えば安すぎるくらいだけど。
「あとは、手術代は15万円ほど。そのあとの放射線治療が、月あたり12万円くらいですね」
このあたりで、僕の頭の中の電卓がアラートを出し始める。
「え、これ軽く100万円くらいになっちゃうんじゃない?」と。
「大丈夫? お金、足りる?」と妻がこちらをみる。
「そりゃ足りるさ。事前に調べていた金額よりも安いくらいだよ」
がんばれ僕のポーカーフェイス。
いま一番不安なのは、間違いなく妻である。夫として、一家の大黒柱として、病気の心配に加えて、さらにお金の心配をさせるわけにはいかない。
「あとは、がんの再発を数パーセント下げる薬があるので、みなさんにそれを勧めています。ただ、保険適用とはいえ、けっこうお高いです。これは家計と相談しながら、使うかどうかを決めて頂くことになりますね」
いやいやここまでも十分お高い話でしたけど? という気持ちをこらえて、僕は聞く。
「お高いというのは、どの程度でしょうか?」
「少なくとも、高額医療費制度の上限を軽く超えます。なので、年収次第でご負担が決まります。ちなみに、保険適用前だと、ひとつぶ8,000円。単純計算すると、月あたり50万円くらいですね」
「ぼったくりバーどころの騒ぎじゃないですねそれ!?」
「ええ」と、先生は頷く。「これは2年間使う薬なんですが、薬価だけみるとトータルで1,000万円くらいかかるということで、『地方なら家が建つ薬』とか言われています」
なお、この薬も保険適用になっているので、上限額を超える部分は国が負担してくれるとのことで。
「ちなみに、保険が適用されたあとのひと月あたりの負担はこちらです。この表のとおり、年収によって負担が変わってきます」
そういって、先生が見せてくれた表がこちら。
「上限があっても、金額えぐい」と妻。
「まぁ、月あたり50万円の負担が、この金額まで抑えられると思えば、……えぐいか」と僕。
1年目は、抗がん剤治療と手術、そして術後の放射線治療でかかる金額で、ざっくり100万円。
2年目からは、再発防止の薬で、ざっくり200万円。
合計すると、たぶん300万円くらい。
ここに、病院への交通費や、ウイッグ代、小さい子供がいれば保育園や学童のお金だってかかってくる。
とにかく、この日は妻のがんの告知に、お金の問題と、ショックな話が多すぎた。
少なくとも僕にとっては、人生で一番の衝撃を受けた日だったことは確かである。そしてそれはたぶん、妻にとっても。
******
その夜、家でこの表を眺めていた妻が、「ひらめいた!」と顔を上げた。
「離婚すればわたしの年収での計算になるから、もしかしてめっちゃ負担が減るのでは!?」
「発想がサイコパスのそれなのよ」とすかさず否定する僕。
もちろん離婚なんてしないよ?
僕は、10年前に自分が書いた小説を思い出す。
そういえばあの物語も、――大好きな女の子が直面する”お金の問題”を、二人で力を合わせて解決しようと頑張るストーリーだったな。
なんて、そんな風に懐かしく感じながら。
あの小説の主人公とヒロインだって、いまこの現実と同じように、ネットでお金を稼ぐことでピンチを乗り越えたんだ。
だったら、――僕にだって出来るはず。
「お金の問題なら、僕がなんとかするからさ。一緒に頑張ろう」
まさか、自分が書いた物語と似た話を、今度は現実の方でまた書き直すことになるとは、完全に想定外だったけど。
そう、――僕はきっと、このピンチを乗り越えるために、”ぺんたぶ”として文章を書き続けてきたのだ。
大丈夫。
僕が書く物語は全部、一つたりとも例外なく、文句なしのハッピーエンドだ。
この現実だって、「いろいろとピンチなこともあったけど、みんなで頑張ったおかげで、上手く乗り越えられたね!」って、そうなるに決まっている。
その夜。
僕はPCを立ち上げ、noteに投稿するための文章を書き始めた。
最後に本を出してから、もう、ずいぶんと時間が経っている。
長い文章を書くのは本当に久しぶりだし、読者の方に喜んでもらえるような内容になるかはわからないけど、僕にはたぶん、この方法しかないから。
――いま僕にできる、精いっぱいのことを。
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