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子育て世代に寛容でありたいのです。

昨日、用事があって電車で少し遠出をした。

ホームは普段よりもやや人出が多く、列の最後尾に並ぶと、私の隣に、大量の荷物をかけたベビーカーに幼児2人を連れている冴えないメガネのお父さんがいるのに気づいた。5歳くらいの男の子と、3歳くらいの女の子の兄妹を連れていて、妹の方がぐずっているのを抱っこであやしながら、兄の方も気にかけている。

急行がホームに着いて、あらかた人が電車の中に吸い込まれ、最後尾の私も前の人に続いて乗車した。

そして、お父さんが一度妹を降ろしてベビーカーを車両に載せようとしたそのとき、先ほどまでぐずっていた妹が、お父さんを離れてホーム上をダーっとかけて行ってしまった。

これは大変、と思った私は、一度外に出てお父さんが載せようとしていたベビーカーを引き受けるモーションを見せ、お父さんが妹を連れ戻す間に、兄の方が離れないように気にかけながらベビーカーを車内に運んだ。

既に発車ベルは鳴っていたが、発車の合図を出そうとする駅員さんを目と体で牽制しながらお父さんを待ち、無事に全員乗車することができた。

電車が発進し、これで一安心かと思いきや、妹のぐずりは止まらない。お父さんに抱っこされながら、「ドーナツ!ドーナツ!」と大声で連呼している。どうしてもドーナツが食べたいのだろうか。

兄の方はというと、ベビーカーの周りをゆっくりうろうろしたり、車両の内部までうろうろ移動したり、少しヒヤヒヤする動きを見せる。

大変不謹慎ながら私は、そんな3人の様子を微笑ましく、かつ冷静に観察していた。

幼児2人がいるタイミングって、子育て的にも1番大変な時期だし、それをお父さん1人で電車移動させるとなったら、これは大変な所業だ。一体どこまで乗るのだろう、と思いながら会話を聞いているに、もうあと何駅かは乗っている必要があるのだろうと推測した。

しばらくしても、「ドーナツ!」の連呼を止めない妹を見かねて、お父さんは一度妹を地面に降ろし、子ども2人に手指の消毒をさせてから、手提げ袋の中から取り出したドーナツの袋を開け、中身を取り出し、まず1個兄に渡して、その後もう1個を妹に渡した。

ここで私は、なぜ何も言っていない、しかも周りをうろうろしてお父さんと妹(とドーナツ)にあまり興味の無さそうな素振りをしていた兄にもドーナツを与える必要があったのだろうか?と疑問に思ったが、それはさておき、ひとまず妹はドーナツを口にして満足したようだ。

少し余裕が出たお父さんは、ポケットから白い携帯電話を取り出した。

やっと落ち着けましたね、と私も一息ついたのだが、直後にまた疑問が湧いてきた。ん?携帯電話?ガラケーを使っている!?

このスマホの普及が進んだ現代において、ガラケーを使う理由とは一体何だろうか。スマホ文化に抗ってあえて使っているのか、元々昔から使っていたものを引き続き使っているのか。

あくまで私の推測だが、おそらく後者なのではないか、と思った。使っているベビーカーも、兄の子育てを期に新規購入したもののようには見えない、かなり年季が入った古い型で、誰かから譲り受けたものであることが予想された。もしかしたら、経済的にそこまで豊かではないご家庭なのかもしれない。

そして何より、冷静な観察結果からするに、お父さん自身は人は良いがあまり要領が良くなさそうに見受けられた(大変失礼でごめんなさい)。

もし私がお父さんの立場だったらどうするか、と考えると、ドーナツを食べたいという娘の希望を叶えるだけであれば、まず息子の方にはなるべく気づかれないようにドーナツの袋を1個だけ開け、全てではなく、一口分をちぎって娘に与えるだろう。

そうすれば、息子もドーナツを食べたいとは言ってこないだろうから、引き続きある程度目を離しておけるし、娘は両手や口を汚し過ぎずに済むから後処理が楽だ。余ったドーナツを娘がどこかにほっぽりだすこともない。

もし娘がもっと欲しいという素振りを見せたら、そのときにまた少しちぎって渡せば良い。自分の手は汚れる可能性が高いが、子どもたちの手を拭くよりは自分の手を拭く方が圧倒的に簡単に済むだろう。もし少量で満足すれば、そのまま食べかけのものをまたすぐに袋に戻せば、最も少ない手数で娘の口にドーナツを届けることができる。

ただし、そうやって考えていても、実際にはどうせその通りにはならないだろうとは思う。そうとは分かった上で、少しでも手間がかからないで済むような方法を考える、という話だ。

とはいえ、娘が大声でぐずっていて、周りに頼れる人が誰もいないという状況であれば、そのような冷静な対応ができる人は少ないだろうな、と思うから、必ずしもそのお父さんを責めることはできないし、責める必要もないと思う。

自分と周りの人たちが寛容であれば良いだけの話だ。それぐらい子どもというのは不確かさの大きい存在なのである。

余裕が出て落ち着いたのもつかの間、今度は妹がお父さんに肩車を要求してきた。

小さい溜息をつきながらお父さんがしゃがんで、妹を上に乗せて立ち上がろうとすると、案の定、妹の足がお父さんの顔にあたってメガネが落ちてしまった。そうなるだろうな、と思ったから、すぐに私が拾ってあげた。

そんな中、兄の方も渡されたドーナツをムシャムシャと全て食べ終えて、ベタベタの手もそのままに、車内の路線図を見上げながら「あと4つ~」と言っている。あと(通過する駅を含めて)4駅分、ということが言いたかったようだ。

お父さんは妹の肩車と会話にかかりきりになっているから、このままでは兄のベタベタの手が放っておかれる、と思った私は、お父さんには構わず、自分の持っていたウェットティッシュを取り出して、「これでおててとお口を拭きな~」と言って彼にさし出した。このような形で自分が持っていたウェットティッシュが役に立ったのは初めてだ。

そんな3人の姿を見かねて、近くの席に座っていたベテラン世代の夫婦が席を譲ってくれた。お父さんは恐縮しながら妹と一緒に席に座り、兄の方は私が目の前で見守りながら、彼らの目的の駅に到着した。

娘を降ろすのも大変だろうと踏んだ私は、乗車時と同じようにベビーカー移動担当となり、駅のホームの黄色い線の内側まで運んで、お父さんに「お気を付けて」と声をかけて再度乗車した。

3人が無事に帰宅できていたらいいな、と思う。

その後再び電車に揺られながら私は、まだもう少し他にもやりようがあったかなぁ、と反省点を考えていた。

例えば、さっさとお父さんにどこで降りる予定かを聞いておいて、ある程度長い距離乗ることがわかっていれば、ベビーカーの位置を工夫することはできただろう。私は終始ドア横の手すりの位置にいたのだが、私がすぐにどいてベビーカーをその位置に固定しておけば、人々の出入りの邪魔にはならなかっただろう。

その上で、私がもっと積極的に上の子を見守るつもりのモーションを見せておけば、お父さんもある程度下の子の対応に集中できただろう。

しかし、あまりに手伝いすぎると、お父さんが恐縮しすぎてしまうだろうから、絶妙なバランスが求められるなぁとは思った。

そんなことを考えながらいると、私も目的の駅に到着したので、その後はそのことを忘れたかのように用事に向かった。

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