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ずっと分からなかったのは、「なぜ、ここにいるの?」の答えーヨガティーチャーになるまでの話



ヨガスタジオといえば、お香がたいてあって、仏像やハスの花の絵画があるものをイメージするかもしれない。

だけど、ドミニクのクラスは違った。

白い壁のアート教室。立てかけてあるキャンバスの間を縫うように、マットを敷かなければならなかった。

目を開ければ、絵筆や絵画作品、様々なものが目に飛び込んで来た。

建物内の工事の音がうるさいこともある。静かに瞑想をしている最中なのに、古くなった水道管の音なのか、ぽたぽたと水音が鳴り続いたこともあった。

ヨガや瞑想がしやすいスペースでは、なかったと思う。

生徒だって、ヨガがやりたくて集まったわけではない。ドミニクの友人だから集まったのだ。他の用事が入れば、みんな、すぐに欠席したし、スタート直前にノソノソと入ってきた。

事前のウォームアップをする人なんて、いなかった。もっとも、初心者ばかりだから何をしていいのか分からないのだ。

代わりに、ヨガマットの上でおしゃべりを始める。

「ホリデーにはバリに行く予定なの」「あら、私は去年行ったわよ」

「うちの子はね、、」

レッスン中も、そんな空気になる。

運動に慣れてない生徒ばかりだった。「こんなのできない!私の体は、太すぎるのよ。お腹が邪魔するの」体の大きなイギリス人女性が、お腹を触りながらおどけたように言う。

そんな時、ドミニクは、困ったように笑っていた。難しいクラスだったろう、と今なら分かる。

週2回のクラスだけど、参加者は減ってきた。私一人の時もあった。

「来週からは、週1回になるわ」と、前に座るドミニクが目を伏せて言った時も、驚きはなかった。

私は、欠席なしの真面目な生徒だった。だけど、続ける理由がないと感じていたのは、実は、私だった。

ディープリラクゼーション、と言われて寝転がる。天井のファンを見ながら思う。

なぜ、ここにいるのだろう」外国に暮らし始めてから、なんどもなんども思ったこと。

その言葉が浮かぶ時、いつも胸に小さな痛みが走った。

日本にいた頃は、慣れたものに囲まれていたから、そう思わなくてすんだのかもしれない。

そこで生まれから、そこにいて。進学したから、東京にいて。働き始めたから、職場にいて、、。

日本を離れたら、その物語は、突然なくなった。

自分で決めたのだし、誰にもこんなことは言わなかったけど、いつも「ここにいる」ということに違和感があった。

「なぜマレーシアに住んでいるのか?」とよく質問された。マレーシア人からも外国人からも、日本人からも。

その時々で、相手が受け入れやすいだろう答えをした。

だけど、それは、本当の答えではなかった。

本当は、なぜここにいるのか、分からなかった。

物語から外れて、宙に浮いたままでいた。

その日、いつものようにレッスンに参加していた。

ドミニクが前に座って、呼吸法の説明を始めた。ジャックとドイツ人の女性の間に座った私も、ふ、ふ、と4回に分けて、鼻から息を吐き始める。全員の呼吸の音が聞こえる。

手を合わせ、マントラを唱えた。エクササイズに入る。手や足を動かし、だんだんと汗もかき、息が上がってきた。

1時間のレッスンだから、50分を過ぎた頃だろうか。

「次が最後のエクササイズ」とドミニクが言った。

正座の状態で両腕を上に伸ばし、チャンティングを始めた。私の声と、私の意識は、ゆっくりと、一つになっていった。天に向かい、それが、伸びていく。

「息を吸って」

「吐いて」

手を膝に置いた。意識が、体に戻ってくる。

「ディープリラクゼーション」静かな声が響いた。

仰向けになり、掌を上に向けて、力を抜く。目を閉じる前に、天井が見えた。高くて、白かった。

「ここはどこだろう」と、思った。

意識では知っているのに、知らない。この白いものは、なんだろう。半ば思いながら、目を閉じた。

体が床に吸い込まれ、重さを感じなくなった。

意識と、意識が消える境界。

その間を、ただよっていた。

しばらくたってからだろうか。

ふと、目を開けた。

白さ、が目に入った。


あ、

ここに、いるんだ。突然、気づく。


ここにいる、のだ

ここに、私がいて、そして私が見ている天井なんだ。


この時、全てが物語の中に入ったと、思った。


ずっとわからなかったこと。「なぜ、ここにいるの」の答え。

それは、ことばではなかった。


このクラスは、それから少し経って、閉じることになった。


「クンダリーニヨガティーチャーになるまでの話6」

<続く>


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