見出し画像

「オーライ、オーライの人」


駐車場にバックで入れるというのは、そんなに簡単じゃないと思う。マレーシアでは、変な場所に柱があったりするからか、駐車場の幅を適当に決めるのか、いろんな要素があると思うのだけど、とにかく信じられないくらい入れにくい駐車場に出会ったりする。


ただ、そんな時、「オーライオーライの人」が出てくるのだ。

「オーライオーライの人」は、わたしが勝手につけた名前だけど、マレーシアにいると、しょっちゅう出会う。


駐車場にバックでゆっくり入れていると、突然、どこからか人が出てきて、気がつくと、車の斜め前に立っている。

そこで働いている人というわけでもない。それだったら仕事の一つで、わかるような気がする。


でも、実際には、ほぼ100%通りすがりの人。散歩してた、買い物してた、車に戻ろうとしてた。そんな時、グズグズ入れている車に気づいたんだろう。あ、オーライオーライしてやろう。

また、それまでホーカーのようなところで食事していたのに、わたしのマゴマゴする運転に気づいて、反対側から歩いてくる人もいる。その友達はそのまま座ってチャーコーテォを食べ続けているのに。

スーパーの駐車場では、自分の車を出そうとしてるのにエンジンを止めて、わざわざ降りて、寄ってきた人もいた。

見ず知らずのわたしに「オーライオーライ」するために。


ほら、来たよ。任せとけ。

オーライ、オーライ。


**


オーライオーライの人は、まずわたしの車の斜め前にたつ。車の後部タイヤの辺りを見ながら「こっちオッケー、まだまだこれるよ」片手でコイコイ、と誘導する。ぐるぐる腕を回す人もいる。

信じていいのか、本当かと疑いながら、30%ぐらいそちらを意識して、でも自分の車のバックカメラを確認しながらわたしは車をそろそろとバックさせる。

あるところまでくると、オーライの人は指先を上に向けて、手のひらでピタッと車を止めるように合図する。こういう動きは、世界共通らしい。

それから、両手で握りこぶしを作ってハンドルを持っているようにすると、ぐるぐると回して、「ハンドルを右に(左に)きれ、」と合図する。この時は、運転席のわたしの目をまっすぐ見るので、わたしも真面目な顔でうなづく。

もう、オーライの人と共同作業だ。


さらに切り返しが必要だったら、また同じ作業。前に出して、後ろまでそろそろとバックさせて、ハンドルを切る。


無事入れおえて、「ふー」っと息を吐くと、オーライの人も嬉しそうだ。一緒にやりきったね。わたしは、運転席に座ったまま笑顔で手をあげる。親指をグッと立てて見せることもある。「やったね」

だけど、オーライオーライの人は、すっかり気が済むのだろう。何もなかったように、サッと片手をあげてすぐさま元の場所に帰っていく。

散歩してた人は、散歩に。食事中の人は、食事に。車を出そうとしてた人は、自分の車に乗り込み去っていく。

お礼をいう暇もないし、そんなことを期待してもいないんだろうなと思う。

わたしが車のエンジンをきってドアを開ける頃には、もう、誰も目の前ないのだから。

ーー


オーライオーライの人は、どこでもいる。止めにくい場所で、グダグダやっていると、だいたいあらわれて、助けてくれて、さっといなくなる。

だから、少数の、特別親切な「オーライオーライの人」がいるという訳ではないようだ。多くの人が、いつでも「オーライオーライの人」になる心持ちでいるのかもしれない。


’ほら、来たよ。

任せとけ’


わたしは、いろんなところでマゴマゴする。だけど、オーライオーライの人がいるって思うと、怖さが減る。


私たち、一人一人は弱い存在だ。

だけど、

下手だって、弱くたって。


オーライ、オーライ



ーーー


こんなに胸がぎゅっと苦しくなったり、涙を流したり、あたたかい気持ちになったりするのは、note開始以来初めての経験」(Iさんより)運動も英語も苦手な中年女性が、海外でヨガティーチャーになる話のマガジン。今なら一気読み可能↓


いつもありがとうございます。いま、クンダリーニヨガのトライアルを無料でお受けしているのでよかったらご検討ください。