見出し画像

革屋と本屋のヨシナシゴト往復書簡009

皮革の仕事に携わる河合泉と
本屋を営む絵描き新井由木子の
たわいもない『ヨシナシゴト往復書簡』
vol.09 昔、膠工場があった/皮革とはなにか/もっと言語で/生命の芸術の必要性みたいな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新井さん

膠でそんなに盛り上がるとは。

弊社(河合産業)でも昭和30年代に製造していたらしく、当時の青写真なんかが残っていました。

河合産業が膠を扱っていた頃の青写真


とにかく人海戦術で、活気があったでしょうね。(今もそこそこ元気でやっておりますが)
しかし今現在、国内の生産分に限ってはじりじりと生産量が少なくなっている感じです。
需要が減っているのか、合成のものにとって替わられているのか。

膠を旅する」の著者である日本画家の内田あぐり先生は、日本画で使用する膠が動物の皮からできていると知った時、大きな衝撃を受けたそうです。
その取材のため弊社までいらして膠の原料となる毛のついた(原始的な製法では毛も一緒に煮溶かしてしまうのですよ)、あるいは毛を抜いた牛の皮を目の当たりにして「美しい‼ずっとデッサンしていたい」と興奮されていました。
書籍の出版に伴う武蔵野美術大学の大学図書館・美術館での2021年の展覧会も、とても素晴らしい内容でニコニコ美術館での生放送も評判になりました。
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/17269/

この取材にインスピレーションを得て、他の作品とともに個展を日本橋三越でも開催されていました。
作品が素晴らしいだけでなく、この「膠を旅する」書籍でも、個展の図録でも先生ご自身の言葉で
「動物の、命のしずくを画材として人間の有様を描いていく」
ことについて述べてらっしゃいます。

新井さん、このような内田先生の想いと、ほとばしる表現を垣間見てきて、
私のやっていることは
「皮革を売る」ことだけではなく
「皮革を知ってもらう」ことなのですが、
「皮革とはなにか」について、もっと言語で掘り下げていく必要があるのではないか、と思い至っています。
「なにか」というのは、物性のことだけではなく精神性とか人間とのつながりについてです。
これはなかなか大仕事です。
一生かかっても掘り起こすことはできないかもしれません。
どうしよう新井さん。

また、どこかで飲みながら相談にのってください。

LEATHER TOWN SOKA Project team
河合 泉 2024 5/14

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

か・わ・い・さーん!
い・ず・み・さーん!

いつもにも増して親しげに呼びかけていますが、その訳は、わたしたちって同じ年齢だとわかったからです!
河合さん、snsで自分の干支を『申年』って言ってたじゃないですか。わたしも『申年』です!
わたしは2月生まれなので、もしかしたら河合さんは学年としては、わたしの1コ下かもしれませんね。
次に年女になるときは、一緒に還暦ですね!うふふ!
そういえばですが、わたしのかつて夫であった人も申年で、家に挨拶に来たとき年男で、それを受けてうちの母が「⚪︎⚪︎さんって猿男なんですね!」と言ったという、苦味のある笑いのエピソードが我が家には元夫の置き土産として残っています。

河合さんが申年だと呟いたsns画像

ところで。
内田あぐり先生の言葉「動物の、命のしずくを画材として人間の有様を描いていく」。
すごいですね。
わたしはどうしても生活をしていくために、絵を描くことでもデザインでも、手を動かすことは全て収入に直結するようなことを日々している訳で、商業絵描きで芸術家ではないのですが。
芸術の分野にこそ、生き物の根源的なものに迫っていく力があることを、内田あぐり先生の作品やインタビューを見ながら感じたというか、打ちのめされました。

でも、ほんとうならば。
生活するために毎日働いているわたしたちにも、命とは何かとか、根源的な生きる意味がモヤモヤとわからないままだから、あるいはそれを見つめる(解ろうと手を動かしたり取材したりする)時間が無いために、生きることが辛くなるようなことって、あるように思うので、芸術の目を持って、根源的に生きることを見られれば、強くなれるようなこともあるんではないか。
と、思います。
このことを仮に『町で生きるための生命の芸術の必要性』と呼ぶとします。

河合さんが、これからやろうとしている『「皮革とはなにか」について、もっと言語で掘り下げていく』は、根源に近づくという意味で芸術の意味合いを持つかもしれないですね。
そしてそれは町の中にある場所で考え始めるからこそ、先に仮に名付けた『町で生きるための生命の芸術の必要性』の萌芽のようなことになるかもしれません。
ものすごく、意義のあることって思います。
まだ人生44年残っていますので、是非すぐに大仕事に取り掛かってください!
手伝えることあったら手伝いたい。
(芸術で生きるためにもお金が必要なあたりの話は、今回はややこしくなるので、触れていません)

ところで、この間の蕎麦呑みの時に河合さんが『革の仕事は料理に似てる』って言ってましたけど、それってどういう感じなんですか?

pelekasbook
新井由木子 2024 5/14
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

河合泉
埼玉県草加にある皮革工場『河合産業株式会社』。
家族が営む同社を手伝う傍ら、草加の皮革「SOKA LEATHER」のPRを努めている。落語が好き。
新井由木子
埼玉県草加市の小さな書店ペレカスブックを営みながら、町の工場と力を合わせて『読書のおとも』を作る。酒が好き。落語も好き!!


河合産業が膠処理場の申請をしたのは昭和25年
年戦後の復興で日本全体としても活気があった頃でした


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?