【連載小説】「心の雛」第十四話
(第一話はこちらから)
https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519
※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。
(本文 第十四話 1,586字)
捕獲ちゃんが発動した。
……らしい。耳障りな音が聞こえたかと思うと、次に私が隠れているポケットの上部が急に涼しくなった。白衣がめくれたらしい。見えないので全部想像するしかない。
私がここにいると既にバレていると悟った先生が、手で私をそっと包んでくれた。頭だけぴょこんと出して現状を見てみた。
捕獲ちゃん——黒い棒状の先端がパカリと割れ、ギギギーっと金属質な音がして中から鎌が現れた。鎌って、あれよ。昔話でおじいさんが芝を刈る時に使うような曲がった刃物ね。さらに鎌が出ていない方からは魔法の紐が飛び出してきた。
魔法だと分かるのは明らかに私を目掛けて動いているからだ。あと紐もぼんやりと光っているし。飛び回る妖精を捕まえるために作られているため、俊敏な動きにもしっかり対応するみたい。
包み込んでくれていた先生の手を器用にすり抜け、私の胴体に紐が絡みついた。スポッと先生の胸ポケットから私は外に放り出された。
先生が紐を掴もうとしたが届かなかった。
全てがスローモーションのように感じた。
鎌 が 振り かかっ て き た。
父の 首 を はね た 鎌と 似てる。
「やめてくれ!!!!!!!!」
先生の叫ぶ声。
空中から先生を眺めている。
上から見下ろすのは初めてだった。
いつも見上げるばっかりで。
紐は軽々と私を放り上げ、向こうからゆっくりと鎌が近付いてきた。
目を瞑る。
先生の泣きそうな鳶色の瞳がやけに鮮明に記憶に残っていた。
鈍い音がして、それからドッタンバッタンガラガラとものすごい音が響き渡った。
私がおそるおそる目を見開くと、私の身体は先生が抱きとめていた。私の首を狙って振り下ろされたはずの鎌が先生の肩に深々と突き刺さっていた。
「先生ぇっ!!!!!!」
視界がパァーっと霞む。涙か。まずい、妖精は涙ですら貴重な代物となっている。私の涙がたくさん出るように先生がもっとひどいことをされてしまうかもしれない。
「先生っ‼ 先生ぇっ!!!」
私に鎌が当たらないように先生が丸くなってしゃがみこんだ。両腕で私を抱きしめ、ピクリとも動かない。刺さっていた鎌が一旦肩から抜かれ、再度ふりかざされた。先生は動かない。
そのまま首の近くに鎌が刺さった。
「やめてぇーーーーー!!!!!」
私は絶叫した。
あまり使うと疲れてしまうので魔法は極力使わないように暮らしてきたが、今はそんなこと言っている状況ではない。先生の身体の隙間からキッと女性を睨みつけ、そのまま彼女を病院の外へ移動させた。とんでもない移動距離だ。こんな魔法は一度しか使えない。
最後に見た彼女は捕獲ちゃんを手にしたまま「何が起こっているの?」という顔をしていた。もう興味もない。いくら医師として有名だろうが私には心底どうでも良かった。先生を傷つけた憎らしい人間だった。
肩で息をする。背中に激しい痛みを感じ、両鼻からブッと生温かいものが吹き出てきた。一人の人間を壁を突き抜けて移動させる魔法は、魔力の消耗が激しすぎた。
でも、今したことは時間稼ぎに過ぎない。外に出されたとてすぐに玄関から入ってこられたらおしまいだ。
先生を見た。首から肩からじわじわと真っ赤な鮮血が滲んできた。このままでは死んでしまう。もう、花の蜜だのプリンだの言ってられない。生きるか死ぬかだ。
病院の玄関のドアを必死で脳内でイメージし、ドアの鍵を魔法で動かしロックした。
「先生! ……先生っ‼」
何度も呼ぶが返事はない。足元を見ると血溜まりができていた。
今なら泣いてもいいはずだ。
私は豪快に泣こうと思い、ハタと気が付いた。涙は病を治すのであって傷は治さないんだった。
傷を治すには……妖精の生き血だ!
私は泣いている場合じゃないと気を取り直し、躊躇わず自分の腕に歯を立てた。
(つづく)
第一話はこちらから
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