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Take-8:映画『恐怖の報酬〈完全版〉(2019)』は面白かったのか?──逃れられないものと“因果” / ウィリアム・フリードキン監督に敬意を込めて──

【映画のキャッチコピー】
『密林の果てに、地獄を見た──』


〈作品の舞台〉
南米、ジャングルに囲まれた、とある独裁国にある架空の田舎町ポルベニール。

※南米フエゴ島のチリ領には同じくポルベニールという名前の自治体があります。ポルベニールは日本語で「未来」。このなんとも皮肉な名前を気に入ってモデルにしたのではないかとペイザンヌは推測しております🤔

 ちなみに1953年、オリジナル版の『恐怖の報酬』の舞台は同じく南米ですが、こちらはベネズエラが舞台となっております。

[原題]
『Sorcerer』

 直訳で「魔術師」の意ですね。
 この映画にはニトロを運ぶ2台のトラックが出てきますが、トラックにはそれぞれ「ラザロ」、「ソーサラー」と 名前が付けられております。
「ラザロ」はイエスが奇跡を起こして生き返らせた男。
一方「ソーサラー」は「魔術師」(どちらかといえば「悪」のイメージが 強い)。
 ボロボロのトラックをラザロのように修復(復活)させ、ニトロ運搬に使用することもさながら、人生のレールから一度外れた主人公たちが「復活」を賭け──そして魔術師に翻弄される意味合いもあると思われます。

映画『恐怖の報酬【リメイク版】のワンシーン
YAHOO!
映画『恐怖の報酬【リメイク版】』のオープニング
ジャック&ベティ

※上がトラック「ソーサラー」。下がオープニングのガーゴイル。どこか似ております。

 では、本文もお楽しみ下さいませ🙇


※本日2023年、8/8、ウィリアム・フリードキン監督が天に召されました。数々の素晴しい映画をありがとうございました。
 (´;ω;`)

 さて先にことわっておきますが本記事はアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督によるモノクロ映画、オリジナルの方の『恐怖の報酬(1953)』についてではありませんのでご了承ください。

 リメイクされた方の「完全版」についてです(ややこしい……)。

 さて、その『恐怖の報酬〈完全版〉』。
 こちら1977年初公開の作品でありますが、そのとき30分ほどカットされてたシーンを元に戻しての【完全版】として2019年、再公開されました。

 その時はリメイク作品としては日本でも異例のヒットとなったといいます。

映画『恐怖の報酬【リメイク版】』のワンシーン
CINE MORE

 監督は『エクソシスト(1973)』『フレンチ・コネクション(1971)』、そしてウィリアム・デフォーなど出演している隠れた名作『L.A.大捜査線/狼たちの街(1985)』など映画史に残る数々の作品を撮りました、まさに大御所、ウィリアム・フリードキン監督。

 ん~と、長いのでドキンちゃんと呼ぶことにしましょう。

 今回の『恐怖の報酬』も冒頭が『エクソシスト』のような、まるでガチホラーでも始まるんちゃうかなみたいな、そんなタイトルバックから始まりました。

 始まってしばらく経っても「んぁ?……コレほんとに『恐怖の報酬』だよね、間違ってレンタルしてないよね?」と真剣に思うようなそんな展開がしばらく続きます。

 ドキンちゃん自身、この映画には「1カットたりとも無駄なシーンはない!」と豪語しているので、今回の〈完全版〉の公開は感無量のものでしょう。

 ボクはこの1977年に公開されたリメイク版(完全版ではない方。やっぱややこしいな……)、以前、観たよーな、観たことないよーな、なんかハッキリ覚えてないんですよね~。
( ̄▽ ̄;)

 そう、周知の通り、このドキンちゃん版『恐怖の報酬』はリメイク作品であり、オリジナルは巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が撮ったモノクロの『恐怖の報酬【Le Salaire de la peur】(1953・仏)』。名作中の名作。オールタイムベストの常連です。

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 邦題は同じなのですが原題の意味は違っております。ドキンちゃん版の原題は「Sorcerer」。「魔術師」の意味。

 もう一回だけ言います。今回紹介してるコレは「リメイクされた映画の──完全版」ということであります😅


 とはいえ──油田で火災事故が起こり、それを爆風で消火するために4人の男たちがニトロを現地までトラックで運ぶ──という、本筋は同じであり、まあ誰もが一度は耳にしたことがあるストーリーなんじゃないかなと。


 オリジナルの1954年版もなんというか、ずいぶんと昔に見ただけで、サスペンスに入る前がやったら長いな~と思った記憶が。

 今回この記事を書くにあたり、もう一度観たかったのですが、なかなか見つからず、ままならずとなりました、申し訳ありません。

 昔っから思ってたんですが「ニトロで消火する」ってなんか不思議な感じがしますよね。

映画『恐怖の報酬【リメイク版】のワンシーン』
映画.com

 まあ、ちょっと垂らしたりすると爆発するってのは有名ですが、爆発なんかしたりするとよけい火の手が強まったりしないんですかね? ガソリンとかじゃないから引火したりしないってことなのかな? 理系じゃないのでよくわかりません。
( ̄▽ ̄;)

 このニトログリセリン、狭心症などの薬にもなってますよね。この薬は「飲む」のではなく、舌の下(駄洒落ではない)に置くようにしのばせるそうですな。それは爆発するのを防ぐため……ではもちろんなく、舌の下から成分を浸透させるためなんだそうですね。

 この爆薬というか発破が、薬となるとは……。それに気づいたのもたまたま偶然の発見だったそうです。

 その昔、火薬工場で働いている狭心症の人がおりまして、休み明けの月曜になると必ず苦しくなるらしいんですな。仕事中は至って元気なのに。はて、これはどういうことじゃらほい? 

……ってことで調べてみたところ──原料であるニトログリセリンの粉塵が工場内に舞い、露出した皮膚や粘膜からある成分が吸収されて狭心症が抑えられていたものの、週末に休みをとることで粉塵にふれることもなく薬がきれて、月曜日に力仕事を始めることで狭心痛が起こった──と推理されたわけです。

映画『恐怖の報酬【リメイク版】のワンシーン』
燃えよ!映画論

 そんな出来事があり、やがて、ニトロが心臓の血管を拡張させ、心臓の負担を抑える効果があるということがわかったわけらしいですな。へぇ~。

 ついでなんで、もう一つ『ブルーマンデー』という言葉もこの一件によって使われるようになった言葉だそうです。まあ、現在では「はぁ……仕事に行くの、かったり~な~」とか、そんな意味に使われるのが常となってますけどw

 ちなみになぜ爆薬のニトロにそんな効果があるのか、原因はさっぱりわからなかったらしく、それが解明されたのはついぞ最近のことらしいですね。その方はノーベル賞をとっております。

 ジャンプの漫画、『僕のヒーローアカデミア』にもニトロの(ような)汗を出すというキャラがいましたが、よくよく考えてみると危なっかしくてしょうがありませんわな、アレも。えーと、爆発五郎でしたっけ?(爆豪勝己です)

 この「ちょっとでも刺激が加わると爆発しちゃう」ってのがこの映画のサスペンスを生んでいるわけでありまして。


 そもそも『車』というものは速く走るためのものであります。

 A地点からB地点まで早く移動するため、もしくは物資を早く楽に運ぶために──発明されたといっても過言ではないわけです。A地点B地点という言葉で「ザ・ぼんち」を思い出してしまう人は少なくなってきてるはずですが、それはさておき、それがニトロを積むことにより「速く走れない」というカセを持ってしまうわけですな。

映画『恐怖の報酬【リメイク版】』のワンシーン
Stereo Sound ONLINE

 なのでトラックはノロノロとノロノロとジャングルの中を進んでいくわけです。けっこう崖っぷちスレスレのようなポイントもあり、うわ、こっれ映画館の大画面で見たらめっちゃバクバクすんだろな……みたいな場面も。

 この行く手を次々と遮るトラップ感といいますか……時間が~迫る気は焦る~と、ついついアスレチック・ランドゲームのCMを思い出してしまう人もやはり少なくなってきてるはずですが、それもさておき、これはオリジナルをも遥かに越えてるんじゃないかと思いましたね。

 んで、この逆をついたのが御存知キアヌ・リーブスのメジャー出世作『スピード(1994)』ですやね。

映画『スピード』のワンシーン
映画.com

 こちらは、ある一定の速度までスピードが下がってしまうと爆発する──という逆転の発想をついてますよね~。まさに「うまいパクり」というかアレンジってやつの見本じゃないかなと(根本は同じなんだけどその全く逆の思いつき、というか)。


 この『恐怖の報酬』の見どころ中の見どころでありますが、ニトロを積んだ二台のトラックなんですがね、コレが途中からほんっとに密林を練り歩く獣に見えてくるんですよ。いやホントだから!

映画『恐怖の報酬【リメイク版】』のワンシーン
どらごんづ★Movie’z

 スビルバーグのデビュー作(正確にはテレビドラマですが)『激突!(1971)』。あの、逃げても逃げても追いかけてくる巨大タンクローリーもそんな風に見えましたが、これはそれよりも動物味が凄かったすね。雨で濡れた表面のヌルヌル感というか、木々を掻き分けながらのっしのっしと進むその姿には、タイヤじゃなく四本の脚が見えてきそうなくらい。
(; ゜Д゜)

 そしてなんといっても見どころは、トップに貼りましたポスターにもある、ボロボロの──今にも落ちそうな吊り橋の上をトラックが渡っていくところ。

 CGのない時代、コレ本当にどうやって撮ったんだよ?! ていう。緊迫感がね、もう、凄いったらありゃしないんすよ。
(;゜∇゜)……

 ただ、ラストシーン。

 1954オリジナル版では、仕事を終え、一人だけ生き残った主人公が有頂天になって蛇行運転していると、ちょっとした不注意からあっさり事故って死んでしまう──という、いかにも皮肉なものでして。

 あれほど慎重に運転して、せっかく生き残ったのに……という、1954オリジナル版のラストの方が僕は好きだったかもしれませんね。あのシーンを見るために二時間半見てきたといっても過言ではないくらい。

映画『恐怖の報酬【オリジナル版】』のワンシーン
洋画専門チャンネル  ザ・シネマ

 もちろん、こちら、リメイク版のラストも違う意味で良いです。主人公たち4人の死因が、それぞれ彼らが「ようやく逃げ延びたはずのもの」に起因するものだった──というのが実にイイ。

 タイトル通りまさに恐怖の『報酬』を頂戴するわけです。

 そんな因果応報といいますか、運命の皮肉ってやつがリメイク版にもたっぷり詰まっておりますのでそこは御心配なく。

 映画を見慣れてない方など、弱冠前半が取っ付きにくいかもしれませんが、後半はどんな人であろうとぐいぐい惹き付けられると思います。

 まあ、もちろんそれは、前半を照らし合わせたうえでの──前半あってこその面白さだということに見終わった後に気づくのではありますが。

映画『恐怖の報酬【リメイク版】』でのロイ・シャイダー
MOVIE WALKER
映画『ジョーズ』でのロイ・シャイダー
東十条無頼

 主演は『フレンチ・コネクション』でジーン・ハックマンと共にフリードキン監督とタッグを組みましたロイ・シャイダー。『JAWS(1975)』のブロディ署長でも有名ですね。本作ではめっちゃ泥臭い演技を見せておりますよ。これはちょっと↓の予告まで見てほしいところ。
( ̄▽ ̄)

 では、また次回に!


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