見出し画像

「!」に驚かされて

2024.06.08
ぺぎんの日記#67
「『!』に驚かされて」


めっちゃ淡白なクラスメイト。
彼女の名前を、彼女のニックネームから取って「Pちゃん」としておこう。

Pちゃんの紹介をしたいのだが、実物の彼女を見てもらわない限り、彼女について可不足なく説明するのは不可能なんじゃないかと思う。

パターン化できない、すごく不思議な人。

淡白だけど冷めてるってわけじゃなくて、何と言うか、語尾がフラットな感じ。喜怒哀楽も表現するし、表情だって多少はあるんだけど、基本的に嬉しいときも怒っているときも、吐き捨てるような話し方をする。

そんなPちゃんと、私は普段全然関わりが無いのだが、この間の放課後、ひょんなことで彼女と話す機会を得た。

まぁ言ってしまえば共通の友だちの恋愛話だったのだが、友だちも別に本気で悩んでるってわけじゃなくて、後半は半分、他のリア充に対する愚痴の時間になっていた。

そしてその会話の中で、どういう流れだったか忘れてしまったが、そのPちゃんがギリシャ神話好きだという話が出てきた。

「え、ギリシャ神話勉強したことあるの?」

私は思わず食いつく。
ギリシャ神話、北欧神話、聖書。
この3つは、いつか教養として学んでおきたいなと漠然と思っていた。「大昔から途切れること無く受け継がれ続けてきた物語なのだから、普遍的な面白さがある」と誰かが言っていた気がする。

「ギリシャ神話勉強したことあるの?」という私の問いにPちゃんは、いつもの吐き捨てトーンで
「うん、ちょっとだけだけどね。面白いよ。」
と返してくれる。

30分くらい一緒の空間にいながら、実はほとんど友だちを介してしか、私とPちゃんは会話をしていなかったので、この応答が私とPちゃんの、ほぼ
初めてといっていい会話である。

会話が成功してもなお、心臓がドキドキする。

「え、ギリシャ神話ってさ、どの媒体で勉強するのがいいの?YouTubeとか?」

「いや、ウチは本で読んだ」

「あーあれ、『よく分かるギリシャ神話』的な?」

「え、あれ何のやつなんだろ。普通に『ギリシャ神話』って書いてあるやつ」

「え、なんだろう、原書を翻訳したやつみたいな?えでもギリシャ神話って原書とかあんの?笑」

「貸そうか?」

「えっ!」

なんか私一人で盛り上がってる感じがして、ちょっと恥ずかしくなって「え」が連発される私のセリフ。淡々と繰り出されるPちゃんトーク。そしてその先に唐突に来た「貸そうか?」
私の口元は変な笑みに歪む。

「えっ!いいの?」

そしてこれまた唐突に私の口を突いて出た「いいの?」
Pちゃんに本を貸してもらえるという、それだけでものすごくドキドキして、貸してもらう方針で口が勝手に動く。

「明日持ってくるね」

「ありがとう!」

「うん」

約束がまとまった辺りで、また話は共通の友だち主軸に戻る。
心臓のドキドキは収まることを知らない。

別れ際、もう一度Pちゃんと「明日ね!」「うん明日!」みたいな会話ができるかと思ったけど、そう上手い話はなく、そのままスーッと3人は別の方向に向かう感じになった。

次の日の朝、教室の机にて、1時間目の授業で出すべき宿題をHRまでに終わらせようと必死になる私のもとにPちゃんがやってきた。

「これ、昨日言ってたやつ」

「ふぇ!?」

宿題に全集中していた私からは変な声が出てしまう。しかしすぐに状況を理解し、急いで感謝を述べる。

「ふぇ!?あ、あ!ありがとう!すごい…」

日に焼けた白い紙、ゴシック体で岩波文庫的に配置された文字、500ページはあるであろう厚み。
こりゃぁ只者じゃないなと思いながら受け取る。

「えっとね、ここに付箋が付いてるんだけど、」
一度私が受け取った本をもう一度奪い返しながら、Pちゃんが説明してくれる。私はオロオロしながら本を手放す。
「これ神様の名前が一覧になってるところで、誰がどれか分からなくなっったらここに戻ってくればいいから。」

「了解!頑張って読んでみるね!」

「無理しなくていいよ。ウチも2ヶ月くらい前から読んでるのにまだ読み終わってないから」

もうPちゃんは、気遣いができるんだかできないんだか、芯があるんだか無いんだかホントに分からない笑。

「宿題頑張って。ウチもこれから頑張るから」

見るとPちゃんの机には真っ白な宿題がぴらっと乗っかっている。

「ww頑張ろうね」

「うん」

いつものトーンで返事をし、Pちゃんは自分の席に戻っていく。私ももう一度、宿題に集中する。

その日の夜、家に持ち帰ったその本を開く。一体これは何の本なのだと、最後のページを開くと
「ギリシア神話
著者:エディス=ハミルトン
訳者:山室静・田代彩子
発行所:偕成社
1984年 5刷」
とある。どうりで年季が入っているわけだ。

とんでもないものを貰ってしまったぞと思いながら、スマホをいじりながらペラペラとページを捲っている途中、インスタのDMにPちゃんからメールが届いていることに気付く。なぜインスタのDMかって?LINEはまだ繋げられていないからだよ。

ドキドキしながらDMを開く。
「個人的にはイオーの話と八つの短い愛の物語の➀と④がおすすめ!」

えっ!?
びっくり。だって、あのPちゃんがPちゃんからDMをくれて、しかもそれがわざわざオススメの話を教えてくれるDMで、しかも最期に「!」がついているじゃないの。

これはもう私のこと好きだね。なんて調子に乗ってみたりする。

でも本当に、このDMには心をかき乱された。もちろん良い意味で。

普段フラットな人が、自分にだけそういう感情を見せてくれているんじゃないかなと勘違いさせてくれる人。
すごく特別感湧いて嬉しい。

普段からミステリックで魅力的な彼女がくれた、さらに彼女という人間に惹かれてしまいそうになるDM。

たった1つの「!」で、ここまで人を驚かすことができる人を、私はまだ彼女の他に知らない。

彼女から貰った「ギリシャ神話」
必ず読了して「ありがとう」を伝えに行こう。
そう誓ったPちゃんのDM。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?