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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第22話「醤油の神秘」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった…


■ あらすじ

 花村さんに春の訪れ(作中では冬だけど)

 東西新聞社文化部の元気っ娘、花村さん。休みにスキーに出かけたはいいが、帰り道に雪の吹き溜まりに突っ込んでしまい立ち往生。山の裏道とあって誰も行き通らない真っ暗な夜、心細さの極限にあった花村さんだが、幸運にも偶然通りがかった男性に牽引してもらい窮地を脱する。花村さんは心から感謝し、「お礼をさせていただきたいのでぜひお名前を…」と伺うが男性はそれには応えず「腹減ったでしょう、これを食べなさい」とせんべいを渡してくれ、サッと立ち去った。(名乗るほどのモンでもございません…的な粋)
そして、花村さんの手にはせんべいの包み、目には雪で一部が隠れた男性の乗るクルマのナンバープレートが…
テケテン。
 

見てこの花村さんの表情。頬の赤は、雪夜のかじかみか恋の火照りか…かわいい、好き。

 休みが明けて、仕事をしていてもせんべい片手に上の空で、いつもの元気がない花村さんをみかねて富井副部長が声を掛けると、事情を話すのだが副部長が…

 そりゃないぜトミー、今の時代ならイッパツ退場レッドカードだ。前のページでは「わが文化部の花」とまで褒めそやした口で「婚期を逃しかけている…」はない。ないぜ。
 その時にもらったせんべいを大事に持っているなんて、えらくセンチメンタルだね、と我らが谷村部長が助け舟を出すと、花村さんは「食べてみてください、とても美味しいんです」とみんなに振る舞う。そうしたところ、こんなにうまいせんべいを食べたのは初めてだという感想まで飛び出した。シケらないように大事に大事に取っておいたんだろうなあ、いじましい花村さんの恋心…
 こんなにうまいせんべい、そうあるものではない。本気になって探せば見つかるのではないか、いや見つけよう!と文化部女子三人衆(花村さん+田畑さん、栗田)はせんべい食べ歩き探訪に出かける。クルマのナンバープレートの、「品川」だけを頼りに…

 しかし見つからないんだなこれが!品川中探し回ってもあれだけ美味しいせんべいに出合うことはできなかった。そもそもせんべい屋の関係者かどうかもわかんないし、これ詰んだな…って雰囲気が醸し出されると、山岡が醤油の取材をするので一緒にどうか?と誘う、目当てのせんべい屋を捜す手がかりになるかもしれないと。 

醤油…?せんべいを探しているのになぜ醤油?

 疑問に思いつつ醤油の製造現場への取材に同行するあたり、山岡はこと食に関しては文化部の信頼を掴んでいると言えそうだ。最初期のマジモンの穀潰し扱いから一歩前進だ。(中華街の一件とか色々あったもんね)
 山岡は伝統的な手法での醤油づくりを続ける小規模な業者と、近代的なシステムで管理された醤油づくりを行う大メーカー、双方を訪れ取材をする。
そして岡星で両者の醤油を比べてみようという運びになった。(せんべいまだですか…?)

よくブレる岡星ののれん アニメでもよくブレる

 結論としては、昔ながらの伝統的な手法でつくられた醤油の方がうまい、そばがきにつけてみるとせんべいの風味により近く、まさにこうした醤油があの夜にもらった、うまいせんべいに使われていたんだということがわかったのだ。そして悲しいかな、伝統的な手法で作られる醤油というのは生産業者も数えるほどしかなく、かえってそれでそうした醤油の作り方をしている業者に一軒一軒電話をかけて、せんべい屋に卸しているかどうか尋ねることができ、浅草は「三谷屋」というせんべい屋に卸されていることがわかった。山岡さん仕事してないと思ったら仕事してた(仕事じゃない)

 一縷の望みを託して、しかしこれまでよりも高い確率であることに期待をしつつ、「三谷屋」ののれんをくぐる文化部一行。では、と実際に食べてみると、果たしてその「三谷屋」のせんべいこそが、あの日雪山の裏道で難を救じてもらった際にいただいたせんべいそのものであった。聞けば、あの男性は「三谷屋」の若旦那で、雪山で助けた女性に一目ぼれして恋わずらいをしているという。まさかの同時一目惚れ。
 若旦那が奥から出てきて花村さんと顔を合わせたとき、二人は「あっ!」とお互いに発し、願を遂げることができたのであった。メデタシメデタシ。

ハードなグルメ論争の回のあとには、こうした人情話を挟む。メリハリが効いていて、初期「美味しんぼ」のよきところが出ていると思う。食べ物でつながる縁、それがその後おおきな財産になる。食を中心に人の輪が広がっていくのは、グルメ漫画の王道である感じがして、とても好きです。
お後がよろしいようで…テンツクテンテン

◆ 本物と偽物とはなにか

 何回かこのマガジンで取り上げているが、『美味しんぼ』世界における本物・偽物の基準がどうも私には気に食わないらしい。人口1億ン千万の胃袋を満たすため、もしくは味を届けるための生産・流通はそれはそれで評価されるべきであるというのが私の考えなのだ。もっと品質のいいもの、由緒のあるものを求めたければ他に選択肢があるというのが望ましく、食品における優劣というのは味のみでは決まらないはずなのだ。イチ消費者の趣味嗜好としてならばまだしも、大手マスコミの一員として、山岡はじめ東西新聞社文化部一同が美味いから本物、不味いのは偽物という価値観はどうも納得できないのだ。

このトミーもひどいことを言っているが文化部の総意っぽい

 テレビで宣伝している=いいもの という思い込みを、自らがマスメディアに属して、玉も石も広告料さえ取れれば紙面に載せるということをしていながらも盲信している姿は滑稽だ。読者の代弁?にしても度が過ぎている。

その宣伝の片棒を担いでいる自覚はあるのか

 添加物の何が悪い?本物でないものの何が悪い?といえば言い過ぎか。では味が劣る、伝統的でない、でもあなたの食卓に醤油が届いている。せめてその現実を咀嚼して欲しい。現にあなたがたは気にせず大手メーカーの醤油を消費していたじゃないか。醤油とはこういうものだと宣伝等で思い込まされたという被害者意識が強いのではないか。そう感じてしまってこの回、このシーンの文化部一同は好きになれない。

◆ クルマのナンバープレート今昔

もう一回見て!この花村さんの表情。あーもうかわいい。

そういえば、昔はナンバープレートの品川~のあとは2ケタ、今は3ケタ、時代を感じる1コマだ。そのしたの「いろは」はカタカナの「セ」だと思うんだけど、そんなナンバー存在するのか?したのか?ほんっとどうでもいいことが気になって申し訳ございません。

今回はここまで!

・ 今さら読む『美味しんぼ』

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・私の本業は…

 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
鉄道オタクではない 視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、お暇なときにでも、是非以下の記事もあわせてご一読くだされば幸甚です。
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