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地方のローカル鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか⑧ JRの責任

 こんにちは、冬の足音近しパスタライオンです。

 今回はJRローカル線の問題を考えるにあたって、JRがしてこなかったこと、無視してきたことをつらつら書きます。今回の記事は、私が存廃整理の業務にあたった経験が主なソースなので、残念ながらかなり信憑性を欠くものとなっていることを予め書き置きます。


・JRのやってこなかったこと

1 線区別収支という"考え方"の整理

 2022年度に入って、JR各社は線区別収支というものを公表しました。JR北海道はこの問題が先に表面化していたので、もっと早くから公表しています。
 で、この線区別収支、みなさんならどうやって算出しますか?
 1枚の乗車券を例にいろいろ考えてみましょう

*下の図の券面表示は適当、値段も適当
仮に!こんな乗車券があったとして「どの線区に」「いくらの収入があった」とみなすべきでしょうか?という題材です。

・仙台駅から東北新幹線を使い
・東京駅で乗り換え
・東海道新幹線で新大阪駅まで行く 
      +
・このきっぷを仙台市内の岩切駅で買った 

 このようなケース、貴方ならどこの「線区」の収入にどれだけ計上しますか?

「きっぷを買った駅が岩切駅なんだから、岩切駅(東北本線)の収入でしょ?」
「でも岩切駅は仙山線といっしょに仙石東北ラインを形成しているのだから仙石線の収入にもなるんじゃない?」
「ていうか実際にはこれ新幹線使うわけだから、東北新幹線と東海道新幹線の収入だよ」
「じゃ券面金額を営業キロで割れば?」
「それじゃ岩切駅かわいそうなことになるだろ!」
「東海道新幹線分はどーするんだよ」  「おれ知らねー逃げるわ」

 色んな考え方があります。では正解は…東日本の一般向け公表内容を見てみましょう!

https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/

収支は運輸収入や営業費用の配分等、一定の前提条件のもと算出しております。

https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/

 一定の前提条件、なんともドライ!パッと見はどのような基準なのかわっかんないんですよねこれが。ズコー

 でも私はこれはものすごい進歩だと思っていて、積極的に線区別の収支を数字化する試みは、長らく行われていませんでした。
 
これがやってこなかったことの1つ目、社員は自分の働いているところの線路が儲かってるのかどうなのかわからない状況だったのです。
(*いま存廃が取り沙汰されている線区は「明らかにやべぇ」というのが誰が見ても分かる、そのケースは例外として)

2 統計情報を投げっぱなし

 JRには駅の所在する市町村や県から、「どの駅でどれだけのお客さんが乗降したか教えてください」というお願い(命令ともいう)が来ます。
 これも機械的に出して終わりでした。これが次に述べる経営施策と利活用のあいまい化の一因になっていたと思います。

3 経営施策と利活用のあいまい化

 JRは民間企業ですから、独自の経営方針があり短期、中期、長期の経営施策や投資計画があります。たとえば設備の更新や老朽取替、新規設置など。
 本来事業と投資というのは、もっと儲けるために資本を投下して後に回収するわけですが、話題にしているのがローカル線問題なのでちょっと暗めの例を挙げますと、たとえば駅を無人化するということが決まったとして、それでは代わりに自動券売機を設置するとか、その自動券売機はどんなタイプのものが適当かとか、そういう感じのものをイメージしてください。

 それもJRとしては立派な投資計画なのです。

 一方で、そういうローカル線は沿線自治体が構成する「もっと利用してもらうため」=利活用のための協議会があり、JRも事務局などの立場で関わっています。
 第三者的にひとつの会社として捉えると、その線区では「利用者の不便になる施策」と「もっと利用してもらうための利活用」両方に関わっていることになり、話が複雑になっていきます。

 あえて極端に言えば、地方においては合理化≒不便化を招きつつ、「もっと利用してもらう」ための施策は自治体まかせ、とも言えます。
 任されたほうも画期的なアイデアはそうそう出るわけもなく(以下記事)、少子高齢化や都市圏への集中という大きすぎる社会的要因によって先細っていくのは必定だったということです。

真剣(マジ)でやってるの?どうなの?|パスタライオン ~鉄道と交通政策のまとめ~|note

4 自治体とのミスコミュニケーション

 1~3で挙げたように総じて「自分を解ってもらう努力」を欠いたと思います。これからその作業を進め、溝を埋めていく作業が必要になります。
 ほんとうに大変な仕事になると思います。
 以下の記事で触れたような誤解はまだまだ根強いでしょうし、地域によっては首長がこういうことを言っていたりします。でもこれはJRがまいた種のひとつなんだろうな、その発芽が新型コロナという劇薬によって早まってしまったという風に受け止めています。

地方のローカル鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか② 誤解をほどく|パスタライオン ~鉄道と交通政策のまとめ~|note

・「本業をおろそかにするな」
・「自社ビルを売ってから言え」
・「需要を戻そうという姿勢が見えない」
・「まず便利にするのが先」

上リンクの私のnote

・JRがこれから果たすべき責任

 いま存廃の議論の対象になっている線区について、将来的に「鉄道よりも合理的で」「(少しでも)持続可能性の高い交通網の形成」を行うのが、地域交通を担ってきた事業者として果たすべき責任だろうと思います。
 「なんで鉄道会社がそこまでやるのか」というと、現実的な面ではただ鉄道を手放すだけでは沿線自治体が納得せず、これまで自治体の合意を得ない事業廃止等は行われてこなかったということ、加えて自治体の合意を必須とするよう法改正を行うような動きもありますので、やはり自治体を納得させる必要はあるのです。(国土交通省令などは除く)また、鉄道事業法やその鉄道事業法施行規則で廃止にあたっては「公衆の利便」を阻害しないよう自治体などの意見を聴くことになっていて、特に鉄道からバスへと転換されたときにはその運行を担うバス会社の意見も聴取されます。
 個人的な思いでいうと、今はもう鉄道では残念ながら地域の役に立てなくなってしまったのだから、これからは地域の交通網形成と維持に貢献する総合的なモビリティサービス会社として新たな一歩を踏み出してほしいと思っています。これまで鉄道を運営してきた経験、日本有数の大企業としての蓄積してきた知見、地方単独では有しがたいコネクション、地域のために活かせる財産はとても多いのではないかと思います。
 今までやってこなかったことを振り返り、世間から求められる責任と向き合い続けることを望みます。

・つばめよ、飛べ

 これから待ち受けているのは、走るだけでは超えられない断崖。新しい時代に向かって飛び立ってほしい。JRよ。つばめよ、飛べ。

パスタライオンでした、みなさまお体ご自愛ください

ローカル線の存廃問題についての記事をまとめているマガジンです。
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